理系教授の秘密は甘々のはじまり
部屋に戻ると時計は17時を示していた。夕飯まで、まだ2時間もある。

「この近くに渡月橋があるんだ。全長155m程度だし、周囲にはお土産を買うこともできるショップが並んでいる。行ってみないか?」

波実は大きく頷いていた。

初秋の肌寒さを考えて、真澄は美鈴から浴衣の上にきる中羽織を借りてくれた。一応外出になるのでメイクをして髪も整える。

「波実さんはほんまに可愛いおすなぁ」

東京出身の女将の美鈴は、標準語になったり京都弁になったりと忙しい。

女将と旅館の人に見送られて二人は一路、渡月橋へと向かった。

今日は満月。離れたところから橋を眺めると、万葉集で詠われたように、あたかも月が橋を渡っているように見えた。

「綺麗ですね」

「ああ、綺麗だ」

真澄はずっと波実だけを見ていた。

「橋と月の話ですよ」

「俺には波実しか見えない」

真澄が繋いだ手をギュッと握りしめてきた。

「で、でもどうして突然,,,。先週までは全くそんな素振りはなかったじゃないですか」

波実はあたふたと言葉を紡いだ。

「俺を覚えているか?」

真澄は突然、前髪をボサボサと掻き乱すと、懐から取り出した眼鏡をかけた。

見覚えのある男性は、先週末にコミックメイツでぶつかったあの男性だった。
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