35階から落ちてきた恋 after story ~you are mine~

甘い吐息

美和の部屋に泊まった翌日、やっと貴くんが私の起きている時間に帰ってきた。
でも・・・


「え?海外でライブってこと?」

「いや、音楽祭に招待されたんだ。他のアーティストも参加する」

「いつ?」
「来月はじめらしい」

「えっと・・・もしかして、旅行は中止?」
「悪い。そういうことになるな」

「そっか。いいよ、仕方ないね。明日キャンセルの連絡しとく」

旅行の中止は貴くんのせいじゃない。海外の音楽祭に招待されるなんて名誉なことなんだから喜ばないといけない。
例えそれで二人きりの初めての旅行をキャンセルしなくてはいけなくなったとしても。

新しいアルバムを発売してから、そう、結婚を決めてからほとんどお休みが重ならない私たち。

思い切って来月、海外で仕事をする貴くんのスケジュールに合わせて私は休みを申請していた。
なのに、それもどうやら不要になったみたい。

「ごめんな」私に申し訳なさそうにしている貴くんを見て胸がチクリと痛んだ。私そんなに残念そうな顔しちゃったかな。

「おめでとう。よかったね。頑張って。他にはどんなアーティストが来るの?」

話を変えてみても貴くんの表情は変わらない。
「謝らなくて大丈夫だから」と笑ってみせる。

「また計画しよ」

「果菜。ごめんな」私を引き寄せて腕の中に閉じ込める。
「いいよ」私も彼の胸に身体を預けて目を閉じた。

だって行けないものは仕方ない。
ぐだぐだ言うだけムダってものだ。
誰が悪いわけでもない。むしろ彼らの活動が認められて誇らしいと思わないと。

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