愛してるのに愛せない。
「はぁ・・・。」

溜息を吐いて、パーカーの袖を捲りながら再び歩き出す。
駅のところでまだ話している三人の声は人気もなく静かなこの場所ではよく響いて聞こえる。

「で?小百合の家は?」

「・・・わからない。でも、ここら辺で見たと情報がある。」

そりゃそうでしょ。ここら辺に住んでるんだから。

「じゃあ、ここ通るまで待つっていうのか?」

「・・・。」

「いやいや・・・無謀だろう!いつ通るかもわからないのに待つなんて有り得ないぞ!」

そうだ。
それにお姉ちゃんはあまり電車なんて使わないし、今は由良がいるから余計に出歩かない。

「・・・でも。」

「・・・今日はもう電車もない。この近くにビジホがあるからそこに泊まって、またここら辺で聞き込みしよう。」

・・・・。
心の中で三人の会話に参加しながら、角を曲がる。
もう会ったって意味ないのに・・・・。
二人はもう寄りを戻すことなんてできない。

「ただいま。」

「・・・お帰り。あんた誰かに会った?」

家に入ると、姉が深刻そうな顔をしながらそう聞いてきた。

「・・・なんで?」

「・・・ちょっと来なさい。」

そう言われるがまま姉の後ろを着いていく。
リビングに着いてソファーに向かいあって座ると姉は話し始めた。

「あんた、私が昔、竜王と付き合ってたのは知ってるよね?」

「うん。」

由良は気持ちよさそうに姉の腕の中で眠っている。
その顔を見ながら姉の話を聞く。

「その竜王が私のことを探してるらしいのよ。」

「うん。」

「理由は、分からないけど、もう一度私に会いたいって言ってるらしくて、今日の昼間に私の友達が駅で見かけたらしくて教えてくれたの。」

「・・・。」

「だから、もしあんたが竜王に会ってたら「会ってたら・・・何?」

「あの人は危ない人だから関わらないでほしいの。」

そう言う姉の顔は、本当に心配している顔だった。

「危ない人?」

「・・・あの人、裏の人になっちゃったのよ。」

「・・・・。」

確かにその雰囲気はあった。
私は駅で見た竜王の姿を思い出していた。

「お姉ちゃんはさ・・・。」

「うん?」

「竜王となんで別れたの?」

そう聞くと姉は小さく微笑んだ。

「そんなの簡単な話よ。
あの人以上に好きな人ができたから。」

「・・・義君?」

「そうよ。だから、私はあの人とお別れしたの。
・・・でも。」

「でも?」

姉は困ったように笑い、

「別れたいって言わないまま、消えちゃったから、あの人には酷いことしたなって思ってるわ。
あんなに愛されていたのに・・・。」

そう言うと姉は由良の頭を撫でる。

「・・・関わらないでほしいとは言ったけど・・・。」

「ん?」

「あんたがもし、本気であの人を好きになったら、お願いしたいことがあるの。」

「お願い?」

「そう。お願いって言うのはね?----・・・。」

姉から言われた言葉の意味が分からなかったが、いずれ分かるわ。だってあんたは私の妹だもん。そう言った姉には未来が見えていたのかもしれない。
まだこのときの私はその意味を知らない。
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