きみとなら、雨に濡れたい
7 ・ もう傘はいらない







病院に運ばれてから数日が過ぎていた。

柴田を庇った時に道路に頭を強く打ち付けてしまったけれど、今は包帯も取れて検査も異常はなかった。


「でも風呂が滲みるんだよな」

朝のホームルームが終わって、わずかな時間。
俺は隣の席の柴田と話していた。

腕にできた擦り傷はまだかさぶたになっていなくて、風呂に入るたびにじんじんとする。


「私もそうだよ。ほらここ」

「いや、俺のほうがヤバいから」

「なにそれ、怪我自慢?」

俺を心配して泣いた時は可愛かったのに、すぐに可愛げのない柴田に戻ってしまった。


「頭も打ってないのに気絶してたくせに」

「アンタの助け方が下手くそだったからじゃないの?」


こんな言い合いができるぐらい、俺たちの関係性は変わった。そして、もうひとつあの事故によって変化したことがある。

……それは、柴田が笑うようになったことだ。


今まで自分のことなんて、なにひとつ話してくれなかった柴田は俺に家族のことを話してくれた。


両親は三年前に離婚していたこと。柴田は父親に引き取られて一緒に暮らしていること。これからも生活環境は変わらないけれど、週末には律子さんのところに泊まりにいくこと。

そんなことを、胸のつかえが取れたように教えてくれた。


柴田は少しずつ前に進みはじめた。

俺はどうだろう。

立ち止まっている俺を見て、美憂に情けないと笑われてないだろうか。

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