天才策士は一途な愛に跪く。
動き出した宿命。
白い光を放っていた月が、雲間に隠れてしまっていた。
気がつくと、辺りは真っ暗になっていた。

彼女がさっきまでいたはずの浜辺はもう人の気配もない。

空を見上げると無数の星が肉眼でハッキリと見えた。
東京では見たこともない数の星が天井の模様のように光り輝く。

ふと、冷たい頬に温かいものが流れて瑠維はハッと指で涙を拭った。

口元に笑みがこぼれた。

「ははは・・。気づいた途端に失恋かよ。」

ボソっと呟くとドシャっと砂に腰を下ろして腕を大きく広げて砂の上に寝そべった。

冷っとした砂に身体を預けると少しだけ気が楽になった。

無数の星を眺めながら晶を想う。

簡単に消える想いなら、こんなに拗れてなどないはずだった。

簡単に諦めてしまえるなら。
とっとと彼女を忘れて放っておけるなら・・。

だけど、そんなの・・俺には絶対無理なんだ。

「・・・晶もそうなのかな。」

「あいつが消えなくて、ずっと苦しくて・・・。辛かったのか。」

俺の片思いの長さの2倍以上の時間を彼女は
ただ一人、山科 聖人を想っていた。

すごいな・・。

何年も会えなくなっても、その人しかいないなんて信じられなかった。
作り話なのかとさえ疑った時もあった。

その人以外はいらないなんて
常に妥協して逃げてきた俺の覚悟とは大違いだ。

山科聖人もきっと・・。
彼女と同じように強い意志で逃げないんだろうな。

会いたかった彼女との再会に夢中になって然るべきなのに。

彼女の友人との偶然の出会いを気遣える大人の対応・・・。
余裕なのか、それとも気使いなのか。

・・直感でこの人には勝てないって思った。

優しい微笑みと落ち着いた雰囲気。

太陽のような温かさと光を持つ彼に何故か不思議な違和感があった・・。

彼は、晶にとって危険な存在なのだと。

「なんで・・。なんであの人なんだよ!!俺じゃ勝てる気がしない。」

涙は止めどなく溢れていた。

でも、好きなんだ・・。

消そうとしても、消えてくれない。

彼女だけは簡単に消せない。
消したくない!!

「・・・だから。俺は俺なりの方法で、晶を守るよ。」

決意を秘めた大きな瞳は再び雲の隙間から顔を出した淡い月の光に照らされて
輝いていた。

晶への想いを再認識した瑠維は、決意を込めた瞳で銀色に輝く月を見上げた。
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