天才策士は一途な愛に跪く。
中から、山科聖人が現れた。
誰かと携帯電話で話をしている様子が遠目で確認出来た。


転倒したバイクの近くを見渡しながら、晶の姿を探している様子だった。
溺れている彼女を見た瞬間、サッと聖人は表情を変えた。

携帯を切って、着ていたグレーのポロシャツを脱いだ。

「晶っ!!これに掴まるんだ・・。」

クルーザーに置いてあった浮き輪を絶妙な位置に投げ込んだ。

彼の言葉が聞こえたのか、晶は最後の力を振り絞って浮き輪へと掴まる。

浮き輪にしっかりと身体を預けたのを確認すると
聖人は躊躇いなく海へと飛び込んだ。


難なく晶の傍に辿りつくと、身体を支えながらクルーザーへと運び入れた。

飛び込んでから救出まで
たった数分の出来事だった。

「すみません・・。僕がついていながら・・。」

インストラクターが、バイクを起こしてここまで来ていた。

「いえ・・。あんな状況ではどうしようもないですよ。無事で良かったです。」

彼女の危機的な状況に、俺は・・何も出来なかった・・。

ヒーローのように現れて、あっさりと彼女を助けて行った聖人への敗北感と
苦しそうにもがき苦しんでいた彼女の表情を思い出して、瑠維は胸が痛くなった。

呆然と晶が運び入れられたクルーザーを見つめていると、俺の視線に気づいた
聖人がこちらを見た。

ビクリと身体に緊張が走る。

中にいる誰かに彼女を任せて、再び外へと姿を現した。

「南條さん!!晶を今から病院に運びます。南條さんにお怪我はありませんか??」

「・・・いえ、俺は・・大丈夫です。」

「良かった・・。
今は一秒でも早く病院に運びたいので、僕たちはここで失礼します。
搬送先の病院が決まったら
改めて・・南條さんのホテルへ連絡を入れますね。」

濡れた聖人の髪はキラキラと太陽の光に照らされて輝いていた。

気を利かせた言葉に瑠維は黙って見上げていた。


「解りました・・。あの、山科さん。」

振り返ろうとしていた聖人を呼び止めた瑠維は、重い唇を動かした。

「晶のこと、どうぞ宜しくお願いします・・!!」

「はい・・。南條さんもどうかお気をつけて。」

深々と頭を下げた瑠維に、聖人は見とれるような優しい笑みを見せた。

もう一人、クルーザーの上で輝きを放っている男性が聖人に
話かけていた。

「おい。聖人、ヘリ呼んでいいか?」

後ろから現れた二条 慧の姿を確認した俺は驚いて目を丸くした。
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