時を繋ぐ真実の物語<「私の獣」番外編>
アレクの傍を離れたアメリは、図書館主のもとへと向かう。スラスラと羽ペンを書簡に滑らせている白髭姿の老人は、アメリに気づくと「これはこれは、アメリ様」と立ち上がり一礼した。


「何か、御用ですか?」


「こんにちは、ルドルフさん。予言の書のありかを、ご存知でしたら教えていただけませんか?」


アメリの言葉に、ルドルフは驚いたようにつぶらな瞳を瞬かせる。


「予言の書ですか。それでしたら、この先の書庫に厳重に保管してあります」


「見せてもらうことは、出来ますか?」


「出来ますとも。あなたはもうじきこの国の王妃になられる方だ。拒むことなど出来ません。ただ、見てもあまり意味はないかと」


「どういうことですか?」


首を傾げるアメリ。ルドルフは椅子から離れると、曲がった腰でそろそろと書庫の方へと歩きはじめた。


「まあ、見てくだされば分かります」






埃っぽい書庫の隅の金庫に、その予言の書は厳重に管理されていた。国を動かすほどのものなのだから仰々しい書物を想像していたが、予想に反して掌におさまるほどの小さな冊子である。黄ばんだ紙が、年月の重みを物語っていた。


「その昔ロイセン王はとある占星術師をいたく気に入っており、政から料理の献立まですべて占術師に占わせていたそうです。占術師は亡くなる前に国王のためにこの予言の書を遺し、占術師亡きあと国王は何代にも渡りこの予言の書にしたがって政を決めていったといわれています」


ルドルフの説明を耳に挟みながら、アメリはおそるおそるその書物に触れる。


だが、ページをめくるなり眉根を寄せた。
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