God bless you!~第9話「その付属と、なんちゃって」・・・合同スポーツ大会
ポコポコと手応えのない右川の猫パンチが黒川に炸裂している。
「チンピラ。ヤンキー。youtuber」と、黒川の胡散臭い応酬メドレーをBGMに、俺は腕組み、しばらく目を閉じた。
確かに阿木の言うように、そして桂木も感じていたように、本人が怒らないのをいいことに、右川による〝黒川イジリ〟はよく見かける。
黒川も、ヤラれっ放しではない。いつものように斜めに構え、今のようにタイムリーな一撃で返り討ちにした。
2人は仲良し……それは、そんな特別でもない気がする。
席が後ろと前。いつでも話せる。生徒会で真木と話すのとそう違わない。
清野、スーさん、海川。そこらへんと比べたら黒川とはそれほど会話が弾んでいないと右川本人が言うんだから、つまり黒川とは、そんなレベルなのだ。
あの夜。
右川亭で、右川と話した事。
思えば、アクシデントと喧嘩以外、まともに話したのはあの時が初めて。
会話が弾んだかどうかは別として、まともに話せたのだから、俺は黒川とは同じ扱いにはならないだろう。
黒川と差が付いた♪それに、ちょっとだけ気を良くして……とはいっても、そんな事では埋まらないほどの不安を抱えて、模試の結果を取りに行く。
「さっき貰った」とノリが言う。
「あたしは朝イチで」と桂木も言う。
結果的に俺独りで職員室に向かった。
結果は悪くなかった。というか、意外と日本史が取れたので安堵した。
運が良かったという事もある。
都合良く覚えていた時代がクローズアップされていたから。
重森が居る。
担任の先生から、みんなと同じように模試の結果を渡されていた。
みんなと違うのは、「今回はちょっと調子悪かったのかな」と先生から慰められている事だ。結果が良くなかった……。
いい気味とは、どうしても思えない。例え、重森であっても。
かなり落ち込んでいる様子だった。今も、小刻みに肩を震わせて。
重森と目が合った。
どうしていいか分からなくて、誰も居ない周りに向けて頷きながら目を反らす……という挙動不審を、俺は演じる。
職員室を出ると、その先、廊下にドラえもん体型・松倉が居た。
誰だか男子と楽しそうに……あれが、清野だ。
6組の。おとなしい部類。真面目な部類。
同じ中学出身の筈だが、俺とは殆ど馴染みのないヤツである。
松倉が、「ねー英語のー偏差値―どうだったー?」と、相変わらず間延びした声で模試の結果を突いた。清野の試験結果を盗み見て、「てゆうかリスニングー、全然出来てなくねー?」と笑う。
そこまで土足で踏み込んで笑える程の、親しい仲間同士。
これは、俺等の周りにもよくある光景だ。
恐らくこの状況を見ても、清野と松倉が怪しいとは、どうあがいても話題には昇らないだろう。ズバリ、面白くないから。
俺とか黒川とか、そっちの方が仲間を巻き込んで、賑やかなグループが盛り上がる。それだけの事。こうなると、俺と黒川はそう大差ないように思えてくるから、結構屈辱だ。
教室に戻ったら、もうすぐ4時間目が始まるという時間だった。
まだやって来ない先生を窺いながら、どこか遠慮がちに、桂木は俺の側にやってくる。
……何を話そう。
そんな事を一瞬でも思ってしまう。
成り行きとは言え、右川亭では、本音が漏れてしまった。
そこからもう溢れて止まらない。
本音と偽りが拮抗。
ウソを見破って抵抗する。
そこからもう誤魔化せない。
今度2人になったらその時こそ。今度こそ。
「あ、さっきの」
黒川が、誰ともなしにポツンと呟く。
「なんかオレ、ずっと引っ掛かってるんだけど」
「何が」
「〝45〟」
咄嗟に右川が、黒川を振り返った。身を乗り出して、
「何?何?思い出して。早く早く♪」
「それがスッと出てこねーんだよ。なんか45,45って、聞いただけで本当イライラすんだけど。マジ気持ち悪ぃ。あーうるせぇ。何だよ、この地獄的嫌悪感」
黒川は、しきりと頭を振る。
「何か、他にヒントとか無いのかよ」
「ヒントと言えるかな。そいつ沢村を見て〝45〟って言ってさ」
「それを早く言えよ」
思わず「分かったのか?」と、俺は身を乗り出した。
侮れない黒川のひらめきを早く聞きたい。
「ズバリ、おまえの精神年齢」
一気に堕ちた。
げんなり。見た目年齢とか精神年齢とか、ほんと殺したい。
「ちゃんと考えろ。返せ。俺の〝45〟」
黒川を横から小突いた。
ふと気付くと、桂木が無言で首を傾げている。
何かと思えば、「ごめん。無理」と途端にブッと吹き出した。
「俺そんなに老けてる?」「え?ごめん。無理」と何を訊いても笑う。
最後には、無言で飴を寄越した。(これで許せと?割に合わない。)
模擬試験。桂木は自分の結果に、どうにか満足だったらしい。
「あたしさ、京都の大学、推薦がもらえそうなんだ」
「よかったじゃん」
「まぁね。生徒会に入ったのも、実はその推薦が欲しかったせいもあったから。第一関門突破かな」
そうだったのか。
桂木が、いい加減な女子だったら、どんなに簡単だろう。同じ視点でモノを語れる仲間だから、そこを失いたくないと思う気持ちはあるのに。
「桂木は堅実だな」
「そっちこそ。いつも真面目で、ごくろうさまです」
「真面目すぎて……第一志望、俺は一般かな。さっき吉森に何となくそんな事言われかけて。あそこの推薦って、みんな行く気満々だから」
「沢村なら一般でも平気でしょ。模試、どうだった?」
そこに、先生が入って来た。「はい、席について」
ばんっ!
突然、黒川が机を叩いて立ち上がる。
「うおおおおおおーッ!わかったぞーッ!!!」
授業の開始は、黒川の大声で引き裂かれた。
驚いた右川が、椅子ごと後ろに引っくり返る。机上の荷物、お菓子ばかりがそこら中に転がって、教壇に立った先生は、その光景に目を丸くした。
「45だよっ!!!」
3年5組。黒川を中心に、スッ転んだ右川も、桂木も、俺も、永田も、先生も、クラス全体が固唾を飲んで黒川に注目する。
「うちの……双浜高の学校偏差値45だぁぁぁー!」



打越会長名義で、最終確認のメールが、どんどん送られてくる。
その日の放課後。
こちらも、大会を明日に控えて準備と最終チェックに余念がない。
実行委員に設営を頼み、選手団も、試合の作戦会議に余念がなかった。
そういった表向きの段取りの一方、生徒会室では、口の硬い関係者&有志が集まって秘密会議の真っ最中。
そこに、黒川もいた。
偏差値〝45〟。
「それは立ちあがってまで主張するほどイケてる評価じゃないぞ」と、先生から返り討ちに遭っていた。
俺には、納得できた。おそらく黒川のひらめきで間違いないだろう。
そんな低偏差値の野郎が来たゾ、と付属は俺に当てこすったのだ。
右川の計画を、ひと通り聞いた。
誰も何も言わない。
ややあって黒川が、「オトコって哀しいな」と呟く。
俺もそう思う。また意見が一致したな。
大会は、とうとう明日。
「やれやれ、明日だ。何とか終われ」
早くも、黒川と今日2度目の意見の一致を見た。
今は、天候が荒れて中止になればいいという希望的観測より、一体どうなるのかという好奇心が勝る。当日にならないと分からないなんて……学校行事でそんなの、アリか?
段取りは全て終えた。
後は、チンピラ右川のお手並み拝見。



その夜。
夢に、いつかの占い師が出てきた。

〝声なき叫び。壁と波。運命のモテ期、到来〟

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