God bless you!~第9話「その付属と、なんちゃって」・・・合同スポーツ大会
「ゆっくり行こう」
その日は、晴れた。
ちょうど雨と雨の谷間にあたり、雲1つ無い晴天である。
暑い1日になりそう。
応援団&その他生徒の服装は問わないが、選手参加者は、学校指定・名前入り体操服の着用が義務づけられた。
学年と名前が一目瞭然。学校同士の混乱を避ける意味もあるらしい。
俺ら3年ジャージは、臙脂に近い〝赤〟である。派手な色で、名前入り。
これで街中はけっこう恥ずかしい。知り合いには絶対見られたくない。
決められていなければ、部活のジャージでお願いしたかった!
2年生は青、1年生は卒業した3年の色を引き継いでの紺色である。
(地味に羨ましい。)
チーム種目のバスケ&バレーは、ジャージ上にゼッケンを付けて参加だ。
こちら側の女子を考慮して、サッカーはフットサルに変更を、と訴えた。
これは2つ返事で了承済み。表だって変更と言えるのはそれぐらい。
永田のやる気はここに来ても健在で、誰が作ったのか〝最終兵器〟鉢巻を巻き、「おらおらおら!」と、そこら中を走り回る。
ついでに目に付いた野郎の頭を叩き、最後に先生から一発喰らう。
大暴れはいいけど、本番でバテるなよ。(……いや、バテてもいいかな。)
校庭の一角に、双浜のマラソン参加者が集められた。
午後スタートを伝え、途中の休憩場所から注意事項までモレなく伝える。
女子が70人程度、男子が120人程度が集まった。
重森は、マラソンにはエントリーしていない。
いつかの女子部員が言うように、かったるい、と言う事だろう。
ホッと胸を撫で下ろす。面倒事は、付属でもうお腹一杯だ。
自由参加でマラソンにエントリーしていた黒川は、右川の指示で、急遽バスケに変わった。ヤツには大事なお役目がある。面倒くせ、と愚痴る余裕もないのか、黒川はいつになく緊張した面持ちだ。これはこれで興味深い。
右川は、朝から脱力感を隠しもしない。
「面倒くさ」「さっさと終われ」を連呼した。仲良くしているうちに黒川の怠け癖でも伝染ったのか。(いや、こいつは元からそうだ。)
浅枝も相変わらず、鏡を覗き、「どう?」を、やっている。(まぁいい。)
真木も相変わらず、右川に小突かれ、ぎゃ!と跳ねた。(どうでもいい。)
そこへ、付属軍団の送迎バスが到着。
付属男子は、いつになく緊張感漂う面持ちで、あちこちを見渡し、女子にも一応見とれて、フラフラと案内人に辿り着いた。早くもオニギリをパクつく猛者が居る。
「オレ、来年ここ受けるワ」「俺も」「俺も」「多分、全員合格」
内輪ウケで一通り盛り上がって、続々と案内に続いた。
打越会長を始めとする生徒会執行部を筆頭に、その他選手も応援団も続々とやってくる。
赤野。片桐。いつかの野郎。その他色々。
……見てろよ。無視を決め込んで、俺は淡々と作業をこなす。
見取り図、タイムスケジュール、案内パンフレット……入り口で受付が対応に追われる。その先では、「1年生はこちらでーす!」と案内係が旗を振った。
詰め襟学生服の行列が、割り当てられた更衣室に吸い込まれていく。
開会式が始まり、付属生徒が一同に会すると、グラウンドは付属の濃紺一色に染まった。上下濃紺のジャージ姿、前ファスナーを開けると名前入りの真っ白いユニフォームが眩しい。
ただ……これだと、どれが先輩後輩なのか、見分けがつかない。
名前入りと称しても、よっぽど注視して覗きこまないと分からないだろう。
どっちにしても、こちらの赤・青・紺色なんて、まるでお子様団体だ。
俺は、ちょっと考えて、せめて下だけ……濃紺とはいかないまでも、それに近いバレー部のジャージズボンを穿いた。
時間が迫ったら、着替えればいい。これ位の抵抗は許せ。
見ると、運動系を中心とする応援団は、それぞれの主張よろしく、鮮やかなユニフォーム姿で勢揃いである。
優勝旗を翻し、しゃあーッ!せッ!ほッ!と無意味な掛け声を連呼した。
さっきまで向こうで暴れていたと見た永田は、これまた何をイキっているのか、ギラギラしい蛍光色の合羽を纏っている。
「存在感は、オレ様1番ッ!」と弾んだ。
単に目立ちたいだけ。そこに対抗意識を燃やしてどうする。
恥ずい。ウザい。ワロタ。女子の嘲りが聞こえてきそうだ。
開会式。
先生の挨拶に続いて、打越会長が、挨拶に立つ。
こちらで開会の挨拶に立ったのは、阿木だった。(右川の奴、逃げたな。)
永田の奇妙な踊り(?)を横目に、準備体操を終えて、その後、浅枝の注意事項放送を聞きながら、俺達は次の準備に取り掛かった。
試合は厳かに始まる。
マラソンは、大会が終わりに差し掛かる午後3時からである。
それまで色々と様子を窺いながら、あちこち見学するとしよう。
……果たしてどうなるのか。
俺は、まず1番気になる、体育館に入った。
右川がいた。ぼんやりと、手を上げる。俺も同じように応える。
そこから欠伸混じりで試合に目線を戻した。
〝バレーは境界線があるから、都合がいいの♪〟
あれは、いつだったか過去に覚えのあるモノ言いだ。
〝だーかーらー、男子VS男子に打ってつけじゃん〟
例え争いになったとしても、ネットという境界線の壁に阻まれて、すぐにその場で取っ組み合いの大喧嘩には発展しない。
確かに。
だが。
俺は、真上のバルコニーで大騒ぎの団体を見上げた。
「「「「「ナイサー!いっぽん決めろー!小早川っ!」」」」」
小早川、という参加者は、双浜チームには居ない。
右川の指示とはいえ、双浜の喜び組(と右川が言う)スクールカースト上位の女子応援団が、付属チームを当たり前のように応援している。付属男子の応援団と一体となり、きゃっきゃっと浮かれた声を響かせた。
双浜バレーチームは、恨めしい目線を投げる。
……終わってからが怖い。
賞品を女子がおねだりするという右川の作戦あっての事とはいえ……この結果、どう転ぶだろうか。俺は1度だけ目を閉じる。
点数係の後ろでは、桂木がバスケ部の仲間と一緒に試合を見物していた。
俺は審判を労うついでに近付いて、「よ」と周囲にも桂木にも軽口を叩く。
桂木の親しい仲間内で、俺達を冷やかす事はもはや無かった。
仲間内では、それは無意味であるという事実を実感する。
その仲間の1人が、「あっちに、ちょっとイケてる子がいるんだけど」と浮かれていた。
「どれ?」と探す。
どうにも見当たらなくて、「あそこ。3番のコ」とゼッケンを教えられた。
「あんなのがいいの?」と本気で悩んだ。
ただ背が高くて、細いというだけ。
それを隣で聞いていた男子バスケ部3年は、
「オンナの好みって分っかんね。ナマっちろい奴にしか見えない」
「だよな。フォームもあんまり良くないし」と、俺も加勢した。
「でも、賢そうな感じがしない?」と、桂木は同意を求めるけど。
まさかと思うが、俺もアレと同様に見えているのかと、軽くショックを覚える。女子の好みというのは本当に分からない。
そこに右川がやって来た。
「議長~、初めて意見が一致したね♪」
珍しく殊勝な所を見せたと思ったら、「分かんないよね~。こんな45のどこが好いんだろね」とバスケ部軍団と一緒になって、俺と桂木をイジリ笑った。
「45言うな。145㎝の分際で」
「ブブー!今日は146㎝でした」
「その鉢巻きに1㎝もある訳ないだろ」
気が付けば、審判の向こう側、体育座りの男子群が熱い視線を送っている。
〝双浜高・恋愛バトル〟それを期待する付属男子の熱視線を考慮して……これ以上の諍いは我慢してやる。
ナマっちろい男子が強烈なスパイクを決めて、周りから大きな歓声が上がった。その体つきにそぐわない重厚な音だ。
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