God bless you!~第9話「その付属と、なんちゃって」・・・合同スポーツ大会
「うわ!結構跳ぶねー」と、その運動能力に、右川も喰い付く。
うん、確かに。
「右川の身長、軽く飛び越えちゃうんじゃない?」
桂木の言う跳力レベルが高いのか低いのか、簡単には言えない気がする。
「右川はどれ?どういう男子がいいと思う?」
「居ないね」
「って、全然見てないじゃん」
「それだと話が終わっちゃうだろが」と、横からバスケ男子に突っ込まれても、「だって本当に居ないんだもん」と探す気も無く、鉢巻きのズレをやたら気にしている。
確かに、山下さんのレベルは、ここには居ないけど。
「敢えて言うならって事だよ。どれ?」
「ミノリの言う、あれは絶対無い。せいぜい100歩譲って……」
あいつ!と、右川が指さしたそこは場外。
「あそこのラインズマンに立ってるヤツとか」
「え?あれ黒川じゃない?」
「ちがーッ!ミノリ、もうそれ辞めてくんない?その向こうのヤツ!」
見れば、驚く。
坊主頭。確かあいつは野球部の2年生。
てゆうか。
「あれ、ウチの学校の奴じゃないか」
ちょっとボンヤリして見える後輩男子。野球部に在籍しているけれど、そうそう活躍しているとも思えない目立たない輩だった。
「付属には誰も居ないの?」と桂木に聞かれて、
「居るよ。ゴミとクズとポンコツが」
失礼甚だしい。
「キミ達の知らない世界。割と近場に掘り出し物があるって事だよ」と右川は得意げだ。
「右川の好みって、いまいち良く分かんないね」
「ミノリもね♪」
仲間は一斉に、「「「「「チビにIPPON」」」」」と両手を上げた。
俺は安堵した。
仲間の冷やかしは、地獄的な頃と比べて、かなり落ち着いている。
そんな中で仲間とはしゃぐ桂木を見ていると、俺と居る時の桂木は自然ではなくて、どこか作られたものだと改めて感じた。
無理をしている事もあるだろう。
右川が言うように、たくさん頭に来ている事も。
ゆうべの夢を思い出す。
壁と波、か。
続けたい気持ちと、辞めたい気持ちも、そんなような物かもしれない。
バレー部のキャプテン工藤と目が合った。
お互いが胸に手を当て、ホッとひと心地ついて……そんな共感を送り合う。
バレー戦は、右川の予想通り(ケンカ一歩手前で)順調の様子。
では境界線という壁のないバスケはどうするのか?
あの日、右川にそう投げかけた。
〝バスケは、5対5でしょ?相手チームに、こっちから女子を入れちゃえばいいんだよ〟
付属チームは優勝経験の現役バスケ選手をメンバーに入れている。
それならハンデが欲しいな♪とばかりに、何故か右川は、突如として男女混合に決め付けた。かなり強引に。
ええ!?と最初こそ異議と困惑を唱えていた付属チームであったが、「ごめんね。うちの会長って強引だから」と、これは本意ではないと切なく訴える女子をムゲにもできす……意味深な熱視線を送る女子に気を取られて、文字通り、ふ抜けた。
「あたし、無理だよ。下手だもん」と泣きを入れた女子が、付属男子の優雅なアシストで、鮮やかなレイアップ・シュートを決めている。
「うそ!初めて入った!ヤバーい!」
女子は大喜び。チームワークは最高潮。この後の展開次第でどうなるか。
俺は女子の1人と目が合った。
女子は頷いて、親指を立てる。
その時だ。
コートの向こう側、打越会長と目が合った。
困惑とか、憐憫とか……様々な感情が入り乱れた。
それとは分からないように軽く会釈する。
隣の赤野は、何か言いたそうで。〝偏差値45〟そう聞こえた気がするぞ。
バスケの試合は、概ね和気合合と進む。
その後、双浜男子に連続でシュートを決められても、自分達に全くボールが回って来なくても、付属は不満を感じている様子は無かった。
女子の「どんまい♪」「あたしのせいでごめんね」と、これが最強だ。
そして、後半は付属チームが追い上げる。付属チームに入った女子は、下手クソを武器に、我が双浜チームの邪魔者へと進化を遂げるのだ。
勝ち負けなんか、どうでもいい。
右川の思惑通りに進んでいる。
付属バスケは最高のチームワークで、勝利を掴む。「さすがぁ」「信じらんなーい」「すっごーい」と、一連のノリで女子から賞品をねだられたら……確かにムゲにはしづらい。
体育館を後にする右川の背中に向けて、「順調だな」と思わせぶりに投げ掛けたら、「え?ああー……そだね」と、ぼんやり応える。
「なに燃え尽きてんだよ」
「つーか、なーんか1日長いな~と思って」
は?
「まさか、もう飽きたとか言うなよ」
「つーか。もうあたしらにやる事無くない?」
「帰るなよ」
「何で」
「その成り行きを見守る義務ぐらいはあるだろ」
「あ、そ。じゃ」
急に冷めてやがる。心ここに在らず、というか。
確かに、段取りを終えてしまえば、俺達がやる事は無い。
右川のいい加減な物言いも、いつものそれだと言えなくもないので、あまり深く気にも留めずその背中を見送る。
今は、俺が個人的に気になる、永田が率いるバスケ部のベストメンバー戦に向かった。
「何だよぉ!何であっちを応援すんだッ!おまえら何やってんだよッ!」
バレーの応援団を横目に、さっそく永田は荒れていた。
「いいかッ!何があっても周りに呑まれるなッ!ここはアウェーだと思えッ!」と、仲間に喝を入れる。
その後、作戦会議と称して呼び出されたバスケ部メンバーだった。
「うちのバスケは強豪。このメンバーは最強。つまりフェアじゃありません。だからハンデって事で、こっち側に女子が2人入ります」と桂木がノタマう。
当然、ええー!?と非難の声が上がる。
「ふざけんなッ!」と永田が荒れる荒れる。
そこへ、ブラザーKが登場。「会長命令なんだから仕方ねぇだろ」
〝さっきのバスケ。付属にハンデで女子が入ったでしょ。だったらこっちも入れなきゃね♪〟
「フザけんなッ!チビクソの言う事をハイハイ聞けるかッ!」
永田は簡単には首を縦に振らない。
他のメンバーも、「あの会長か」と2の足を踏むはずだ。
そこで、「でもこれは、全国大会とは違うし」「沢村からも、生徒会の顔立ててフェアにやって欲しいって頼まれちゃってるし」「そんならしょうがねぇな」と永田以外、後輩&有志は、ほぼほぼ納得……俺の人徳を持ってしても、口で言うほど上手くいくとは限らないから、後は黒川のお手並み拝見。
永田が大人しく引き下がるとは思えない。
手のひらで転がすだけ転がして、永田をどうにか押さえつけてくれ。
その試合が始まる。
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