God bless you!~第9話「その付属と、なんちゃって」・・・合同スポーツ大会
~右川カズミですが、何か



予定通り、うまく行ってる。


右川カズミは、フン!と鼻で笑った。
「生意気だろ?このクソチビ」
重森は、いちいち仲間に同意を求めるけれど……おまえだって偏差値低いくせに、女子なんかと仲良くやりやがって……実の所は、そんな風に思われてる事を分かってんのかな。
右川カズミは、ほくそ笑んだ。
「でかい野郎に囲まれて嬉しいか?わざわざ揃えてやったし」
その通り。
身長145センチの右川カズミは、目障りな背の高い付属男子2人に視界を阻まれ、重森には足を踏まれている。
重森は、付属のジャージなんか着て、イケてる風を装った気でいる。
どう見ても、なんちゃって。滑稽だな。
付属生徒の中に、重森を見た時は、目を疑った。
その後も、重森は付属に混ざって堂々と準備体操なんかしている。
今度は何を企んでいるのかと、右川カズミは警戒を怠らなかった。
そして、準備も。

マラソンが始まった。
重森は付かず離れず、右川カズミの後ろを団体に紛れて付いてくる。
何かを狙って、チャンスを窺っている。それは分かった。
重森にタオルを渡して混乱していた後輩には、「見た事は、忘れてね」と、それとは分からないよう、やんわりとクギを刺す。
すぐ後ろに、沢村が居たからだ。
重森の事で、沢村が関わるとロクな事が無い。
ていうか、邪魔だ。
……だからこの作戦は、あたしの単独。許せ、クソ45。
重森は、折り返し地点で、攻撃を仕掛けた。
視界を阻み、足を踏み。痛くはないけど、かなりの屈辱。
「あんたさ、女子に嫌がらせなんかしてる場合?こないだの模擬試験ボロボロなんだって?ま、あんたの気持ちも分かるよ~。何と言っても偏差値45だもん。そうやってコスプレでもしない限り、付属とは一生並べないもんね。あ、そのジャージ、幾ら?何ペリカで買ったの?」
「うるせぇよ!」
重森はプルプルと震えて、「おまえは絶対許さねーから!」と激怒した。
「どーすんだよ、重森ィー」と、付属男子は現状を持て余して、面倒くさそうに頭を掻く。
「重森と仲好いの?」と聞いたらば、「こいつとは塾で一緒で。ま、それだけなんだけど」と悪党一味は一枚岩とも思えない。
「重森ぃ。もう、いんじゃね?」と、ふ抜けた物言いだった。
「俺は!このオンナが泣くとこ見ないと、気が収まらねーんだよ!」
「「えええー……」」
付属側には、明らかにノレない雰囲気が漂う。
右川カズミは、そこを突いた。
「あのね~、あたしね~、心配なのぉ。こんな事バレたら、もう2度と他所と合同大会なんか出来なくなるよぉ~」
「うへ。それヤベぇワ」「女の子と遊べなくなるじゃん」
右川カズミは見切った。
男子はとことん女子に甘い。女相手に悪にはなりきれない。
そして、今はもうこっちの手中だ。
……くすん。
右川カズミは俯いて、泣いて(もちろん泣き真似)。
そのまま、横の付属男子にしがみついた。
男子は一瞬、たじろぐ。だが、すぐにその手を馴れ馴れしく肩に乗せた。
「おまえらダマされんな!これはクソ芝居だ。普段はツンツンやってんだよ。それがこいつの本性だ!」
付属男子はお互いに顔を見合わせて、
「ま、女子って、誰でもちょっとはツンツンじゃね?」
「ちっちゃいのに頑張るなァ~」
1人が指先で、ちょんと、こっちの頭を弾いた。
「やーん♪」と頭を庇ったら、「「かーわいい♪」」と口笛を吹く。
ちょん。「やーん♪」ちょん。「やーん♪」
右に左に、体が揺れた。
「お、おい!おまえら!」
重森が慌て始める。超ウケる。
どんなにサカっても、男子の両手は肩を抱いたまま全く動かない。
愉快愉快♪。ケケケ♪
「キミって名前、何だっけ?」
「右川カズミですぅ~」
「騙されんな!この態度は演技なんだって!」
重森が何を言っても、付属の、ふ抜けは続く。
「カズミちゃん、小っちゃくて可愛いね。彼氏居るの?モテるでしょ」
ここでピンときた。
右川カズミは、いつか沢村がやらかした一連の色々を、今度はここで重森にヤラかしてやろうと考えた。
「あたしなんかモテないよぉ。でもね、重森くんね、こう見えて、結構女子にモテるんだよね?」
「は?何言ってんのおまえ」
「こないだ、後輩のツンデレ女子にコクられて。あれどうしたの?」
「え、そうなの?」「マジで?」と、付属男子が重森に迫る。
「1組のエリカちゃんと付き合ってるんでしょ?誰かと二股してるって聞いたけど、それ本当?エリカちゃんが可哀相じゃないかぁ~」
「は!?誰だよエリカって!?」と、重森の声に重なるように、
「重森ぃ。おまえ今まで彼女居ないって言ったじゃん」
「いつのまに、そんな贅沢こいてんだよォ」
「彼女なんか居ねーよ!」
「ええええ~、吹奏楽の女子全員からチョコレート貰ったでしょ~。誰と付き合うか、スリーサイズで決めたとか。触って確かめたとか」
「ウソだ!聞くな!全部ウソだ!これは芝居だって!」
右川カズミは、ますます強く、付属男子にしがみつく。
「なんか今日の重森くん、怖いよぉ~……モグラみたいだよ~♪あ、ヤベ。声に出ちゃった♪」
「ほら!ほら!今聞こえたろ!俺の事、モグラとか普通に平気で言ってんだよ、このオンナは!」
その時だった。
そこに、突然。
想定外の人物が現れた。
いや、充分に想定されていた存在だった。
クソ45。議長の沢村。
それを怖れて、わざわざ松倉姉妹に頼んで見張らせていたというのに。
あいつは勘が鋭い。でも正義感に駆られて舞い上がったら空気読めない。
現状、このカオスが理解出来るとは、到底思えなかった。
まさか、ここに来て、ミッション失敗?
ひょおぉぉぉぉぉぉ。
右川カズミは、今期最高の嫌な予感に震える。
せっかく付属をタラしこんでいるのに。
流れは追い風なのに。
ここで沢村にヒーロー根性をブチまけられたら、その矛先は、いっきに沢村へ向いてしまうのに……いや、それもアリかな?
その場合と、現状と、一体どっちが面倒くさいのか。


震えながら、今も右川カズミは決めかねている。



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