God bless you!~第9話「その付属と、なんちゃって」・・・合同スポーツ大会
「パワハラだぁぁぁぁぁぁぁーッ!」
勝手に被害者面して、永田は体育館中に吹聴して回る。
その先で演劇部に目を付けて、「おまえらの存在が宇宙レベルで恥ずいんだよッ!」と吹くわ吹くわ。あそこの部長も気が短いから……俺は、ぐったりと演劇部のステージに近づいた。
「議長!こいつらどうにかしろッ!気持ち悪くて気が散るッ!邪魔だッ!」
「おまえが1番邪魔なんだよ。うるせぇ。バカ。消えろ」
うっかり正直&素直に出てしまった。
永田の唖然とした一瞬の隙を突いて、「いいから、もう戻れって」と、あくまでも穏やかに、そして肩を強引に押しだす。もう、ゴチャゴチャ言わずに!
そこに突然、バスケットボールが巨大隕石の如く飛び込んできて、俺の背中に当たった。その衝撃で、よろけた勢い、俺は永田に身体ごとぶつかる。
ゴキ!と鈍い音がして、俺と永田の骨同士が、かち合った。
「「痛ってー……!!」」
骨が軋んだような。
「離れろっつーのッ!キモいんだよッ!議長どけッ!どけどけ!」
「おまえがいちいち暑苦しいんだよ。行けって!」
一瞬の間に感じた不快感は、当人でないと分からない。何やら付けているらしい永田の独特な匂いもさることながら、こいつの身体が……やたら熱い。
汗も尋常じゃない。半径1メートル以内に近づくだけで、鬱陶しいから離れてくれ!と夏じゃなくても言いたくなる。
俺の背中に当たったバスケットボールは偶然なのか。
いちいち考えていると、別の意味で鬱陶しいので止めておくが、俺の体力ゲージが、どんどん目減りしていくようだ。
「こうなったら筋トレに行くぞッ!」
まだまだ元気な永田率いるバスケ軍団は、ゾロゾロと出て行った。
そこへ、まるで空気が入れ違うみたいに、学制服の団体が入って来る。
濃紺・詰め襟。
今日は10人ほど居るように思う。全体的に、背が高い輩ばかりだ。
双浜とは違う匂いが、存在感が、そこら中に穏やかに漂う。
〝イベントに伴う学校見学〟
有志がお邪魔するので、よろしく……と、打越会長から、聞いている。
大会の運用関係者による、下調べ……と、そういう事情も聞いている。
先日に引き続いて第2団が到着だ……と、いう事のようだ。
団体は体育館を物珍しげに眺め、仲間同士こそこそ何やら話して笑い合う。
殆どは、脇で準備体操をする体操部に釘付けだった。永田なんかに比べたら、何て奥ゆかしい。付属は、練習の邪魔はしない。セクハラなんて、無い。
女子がその視線に気付いて、ぎこちなく一礼すると、団体は一瞬で硬直。
全員がほぼ同時に、同じ向きに一礼を返した。
何て礼儀正しいのか。初々しい。それですら新鮮だ。
団体の中に、こないだも来ていたタトゥーの会計、赤野が居た。
俺に気付いて側にやってくると、「打越会長から、ことづかって来ましたぁ」と、何やらまとまった書類をどっさり渡した。
色々と提出物。たくさんの頼まれ事。質問状。
「はい……」
ため息が出そうになるのを、押し殺した。
「悪いね。急がせちゃってさ」と、赤野が意外にも気を使ってくれる。
「君をコキ使って、そっちの会長さんに怒られちゃったらどうしよう」
それは無いよ、と言った。
「逆に、こっちの会長があんなので悪いね。フザけてるし、怠けてるし。打越さんみたいに、何でもやってくれそうな会長だと良いんだけどな」
赤野の気遣いに気を良くして、つい愚痴ってしまった。
「いいじゃん。会長ってのはさ、もう居てくれるだけで」
赤野は、少し疲れたような表情で目を伏せる。
外から見るだけでは分からない、何か問題を抱えているのかもしれない。
学校が違えば、そんな色々も全く違うのだろう。
そっちこそ。
いやいや、そっちこそ。
いやいやいや……気休めと知りつつ、しばらくお互いに慰め合った。
ただ、誰が見ても分かる事だが、打越会長は物腰から察するだけでも、ちゃんとした人だ。右川とは大違い。
こっちとしては言われた事をとにかくキチンとやって……今までの学校に比べて、双浜の生徒会は全然なってない!と文句を言われないように。
こういう時、思うのだ。それを心配するのは、それこそ会長の仕事だろ。
肝心の生徒会長、右川は今日も、逃げ帰り。
ま、あいつに任せたらどうなるか。色々と把握しておくためにも、ここは俺が……と堂々めぐりで結局は自分に回ってくる。
右川にガミガミ言ってやらせるより自分でやるほうが早い。
とかって。
本当、あいつは得な性格だ。
だが、それをいつまでも黙認すると思ったら大間違い。
他校の手前、こっちの会長があんな怠慢な態度では示しがつかない。
見てろよ……右川に割り当てる雑用は、山ほど用意がある。
フッ。
生徒会室に戻った。赤野から預かった書類をめくりながら、生徒会室でパソコンを開くと、打越会長からメールで、またさっそく指示が来ている。
各種目の選手名簿……はいはい、ちゃんと取り掛かってますってば。
募集で集まったヤツだけで足りるか。
あとは各学年・各クラスの割り当てで補うか。
バレー部・バスケ部・サッカー部。経験者だけで参加を固めていいのか。
打越会長のメール補足に〝できれば機会を平等に〟とあるから、それを考えると頭が痛い。
報告の締め切り期日を付箋に記して、パソコンに貼り付けた。
ふと窓の外、中庭に目をやると、掲示板に隠れるようにして見覚えのある男子と女子の2人が仲良く居る。
その1人は女子バレー部の同級生・藤谷で、入学当初は、俺とあらぬウワサを立てられていた女子だ。そいつが、相手男子のネクタイを外している。
こんな学校のド真ん中、校舎の上階からは丸見えの場所、何やら怪しい事でも始めるのかとドキドキしていたら、外した相手のネクタイを藤谷は自分の首にヒョイと掛け、ニコニコ笑いながら男子に軽くハグして……以上、終わり。
覗き見ではない。あいつらが隠れていない、それが問題だ。
その男子……剣持というヤツは、仲間とバンドを組んで活躍。
女子人気ナンバーワン。校内ヒエラルキーの頂点。
いわゆる目立つタイプで、中学時代から自分ともよく口を利いていた。
てゆうか、あの2人は別れたんじゃなかったか?
こうして見ると、どうにか危うく、2人はまだ続いているらしい。
そうとしか見えない。
3年になってから慌てて、彼氏彼女を作ろうと頑張るヤツは多い。
出来あがったツーショットは、誇らしげにその幸せぶりを振りまいた。
男子のネクタイは、その証で……近年、双浜では、女子が交際中の彼氏のネクタイを付けるという奇習が続いている。
1年2年は、それをおおっぴらにやると生意気だと目を付けられるので、放課後などに、こっそりとやっているらしい。3年となれば、もう堂々と。
桂木は、あの最初のキス以来、俺に向かって自然に頼んできた。
成り行き上渡してもいる。自他共に交際を認めたと思われてしまうだろう。
そうなる事に納得しずらいと、俺はすぐ新しいネクタイを買って付けた。
生徒会と言う立場上、付けない訳にもいかないから……と一見、真っ当な理由に思える。
桂木もそれには納得ずくで……というか、無理矢理飲み込んで納得して。
結果、放課後など2人きりになる時だけ、桂木は付けて見せているけど。
俺は、溜め息をついた。
桂木は、いいヤツだ。
限りなく好きに近い。好きなのかもしれないと思った事さえある。
しかし、以前の元カノと違って……いや、俺は決して、朝比奈と桂木を比べてはいない。
そこにある、自分の気持ちの居場所の違いを比べてしまうのだ。
桂木と一緒に居ると、自分の感情の遅れに気付かないまま、その先勝手に方向を決められているように思える。自分の気持ちも定まらない。
それなのに、キスまでしてしまった。
その時の状況を思い出して……待てよ、あのキッカケは俺だったか……?
こういう時、思うのだ。
俺は、いつから最低の言い訳ゲス男に成り下がったのか。
見学の付属一団が、ちょうど中庭を通り掛かった。
その内の1人が俺に気付いて、ぺこりと頭を下げる。確か生徒会の……赤野ではない。副会長の1人。緊張と敬意を伝えるが如く、こちらも一礼を返して。
その時、急に外が騒がしくなった。
「ベストメンバーで付属をブッ殺すぞッ!うりゃァァァァ!」
筋トレに行ったんじゃなかったか。
永田が、男子部員に喝を入れる。というか、蹴りを入れている。
実際、それほど痛くはない。永田も加減が分かっているのか、軽いジャブ程度だ。蹴られた相手も、きゃっきゃっと逃げ回る。
「サーキット、始めんぞッ!並べッ!」
声を合図にバスケ部員は1列になり、ボールをドリブルしながら走り出す。
双浜バスケ部名物〝校内サーキット〟。
今日のように体育館が使えない時、バスケ部が体育館を飛び出し、教室、文化棟、2階3階と縦横無尽……永田が、様々な団体に迷惑を掛けながら、校舎を飛び回るという練習。
苦情は必至だ。
「付属を見たら取り囲めぇッ!ロングパスで動きを封じ込めろッ!怖気付くなッ!偏差値クソ野郎に突っ込めッ!」
ギョッとした。
相手校と喧嘩……実の所、それを1番怖れている。
永田の声は次第に遠くなる。そして、俺の不安は倍になる。〝永田の動きを封じ込めろ〟と永田周辺に、それとなく網を張っておく必要があるな。
見学団体と遭遇して、マジ一触即発!?なんて事になったら……俺は重い腰を上げた。
こういう時、思うのだ。
それを心配するのも、それこそ会長の仕事だろ。
俺は、いつから猛獣使いに成り下がったのか。
確か、議長なんだけど。
< 5 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop