お嬢さん、愛してますよ。
お嬢さん、危ないですよ。

日が沈んで、夜を迎えた。

晩御飯を食べ終わり、何をするわけでもなくゴロゴロしているとピンポーンとチャイムが鳴った。

時刻は9時半。ふむ、この時間に尋ねるとしたら…?

「はあい」
「みっちゃん?あたしよ、あたし」

戸の向こうから、ハスキーなオネエ声。

「詐欺には引っかかりませんー」
「あらやだー。親友の声よ?聞き間違えるなんてひどい人」
「生憎夜の戸締りは厳重注意なので。お名前とご用件をどーぞ」
「在川充、今夜はみっちゃんを夜の国へ連れ出しに来ました」

私はくすりと笑い、玄関の扉を開ける。
親友は相変わらず、女の私でも惚れ惚れするような美しい笑顔で待っていた。

「みっちゃん、お久しぶり。元気にしてた?」
「お久しぶりー、変わんないよ。充も不動の美しさね」

あらやだと頰に手を当てる彼を中に招き入れようとしたが、止められた。

「みっちゃん、晩御飯は?」
「さっき食べたよ」
「ならあたしと一緒にバーに行かない?良いお店、見つけちゃった」
「いいけど……メールしてくれたら駅まで行ったのに」
「それこそ夜に女の子の一人歩きなんて危険でしょ?」
「わざわざごめんね。ありがとう」

ちょっと待って、着替えてくるからと私は部屋に入る。彼は玄関で待ってるわねと言った。

紺のチュニックに白いパンツを履いてカーディガンを羽織る。髪をポニーテールにして軽く化粧をした。

「みっちゃんと飲むの1ヶ月ぶりだ」
「そうねぇ、仕事が立て込んでて忙しくて」
「雑誌見たよ。あの女の子のコーデ、すごく可愛かった」
「あらホント?嬉しいわー」

彼、有川充はモデルのスタイリストをやっている。しかも人気雑誌なんかで堂々と一面を飾るページの女の子のコーデをしているのだから、それなりに凄いのであろう。ファッションに全く興味のなかった私が、少し身なりを整えるようになったのは彼のおかげでもある。

「あの服、絶対みっちゃん似合うと思うのよね。今度時間あったらショッピング行きましょ!」
「あはは、ありがとう」

家を出て、大きな道路に出たところで私は質問をした。

「どこのバー?これじゃ駅と逆方面だけど」
「繁華街のはずれなのよ。ちょっと歩くけどね」
「充、今度はバーの人に惚れたの?」

すると待ってましたとばかり、彼は目を輝かせて喋り出した。

「そーなの、かっこよくて、大人の色気満載!年上バーテンダーだけど、一目見て恋に落ちたわ」
「へー、それはそれは」
「あんまりにかっこいいから、私言葉に詰まっちゃってね。そしたら、「今夜は何をお飲みになりますか?」ってね?!もうそのハスキー声に一発で撃ち抜かれのよぉ」

ちなみに、充はバイだ。この前、女の子に振られたと言って泣きついてきたと思ったら、飲んでた居酒屋の男の店員に惚れてその場で告白。案の定振られていた。

「あれはどー見ても女慣れしてるわ!じゃなきゃあんな余裕と色気、出ないもの!」
「告白するの?」
「んー、それは時期を見てからね。この前は早とちりし過ぎたわ。まずは常連さんにならないと」
「はは、頑張ってね」
「みっちゃんも、見たら惚れるわよ!あ、でもみっちゃんが彼と付き合ったらこれもまた良いわねぇ…!」

その言葉に苦笑する。

「いやいや、ちんちくりんの私がそんなわけないない。今日だっておじさんに子供だって勘違いされたんだから」

そういえば、あの男の人も結構な男前だったなと思い出す。

「そんなこと言って、本当に惚れたら知らないわよ?」

充は私の肩を軽くこずく。なんやかんやと歩いていたら、そのバーの看板がすぐ目の前にあった。

「さ、行くわよ」
「張り切って飲み過ぎないように気をつけてね」
「わかってるわよ。好きな人の前で醜態はNGだからね」

ウィンクをした彼を見て、全く元気だなと私は再び苦笑した。

扉を開けると、カランカランと鈴の音が鳴る。
続いて、「いらっしゃいませ」と、深みのある優しげな声が聞こえた…







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