[完] 空に希望を乗せて [長編]

お母さん

「うぅ、今日はなんかいつもより寒いな…」
ぱっとニュースをつける。
「今日から三日間ほど、厳しい寒さが続くでしょう。各地の気温です。」
・・・。は?3度、だと?最高気温が?え、死ぬ。
「今日カイロいっぱい持ってきてた方がいいよー」
カナ先輩から助言のメッセがくる。よし。貼ってこ。3つもってこ。ガチで寒い。チャチャッとユニフォームに着替える。あぁ!ユニフォーム半袖!上着上着…。うぅ下も寒いけど致し方ない。下、持ってないし。上を着込む。
「あーさびぃ。いってきまーす!」
「あら、行ってらっしゃい。頑張ってね。」
「はーい!」
父さん、なんも言わずに行っちゃったな。ひどい親です事。電車に乗り込むと少しは寒さが和らいだ。ほっと筋肉がほぐれる感じ。そういえば、晴輝くんは私に何を頼むつもりなんだろう。目的地について、電車を降りるとまた寒さが体の芯を伝ってくる。キン、と凍るみたい。また筋肉が緊張してきた。うわぁ、ホント寒い。

「皆さんおはようございます!」
おはようございます。寒いせいかいつもよりみんな元気がない。
「1年生の皆さんにとっては初めての試合ですね。デビュー戦ってとこですな。」

今回の配車。美結のとこだって。しかも私だけ。緊張するけど恋バナができる。いぇい!やったね!嬉し〜い!なんちゃって。車に乗せてもらうと、美結の匂いがした。なんとなくすれ違ったとき香る美結の匂い。美結のお母さんは可愛らしい人だった。ほんわかした雰囲気で愛らしい。いいな。羨ましい。
「茉夏ちゃん…だっけ、美結からよく話聞いてるよー。こんな娘でよかったらよろしくね」
「ちょっとお母さん、やめて。」
「ハイハイ、自慢の娘でした。」
「いや、そうじゃなくて。」
2人の会話、コントみたい。思わず笑いが零れる。ふとうちの親を思い出す。やだ、だめ、思い出したくない。こんな大事なときに。『とっとと死ねばいいのよ。』『お前なんか産むんじゃなかった。』『なんも出来ないつまんない娘。』やだ。やだもう…。私は思わず頭を抑える。止まれ、止まれと暗示をかける。
「茉夏?ちょっと大丈夫??」
我に返る。いかんいかん。お母さんの病み期を思い出したら、その日どんどん言葉が溢れ出しては何も出来なくなる。
「あ、うん、大丈夫。ねー美結ってさ…」
ここで1人になったらオワリだから美結とずっと話し続けた。

「よし!ついたよー」
「ありがとうございました!」
「いえいえ。じゃあ応援するけがんばれ!」
「はーい最後まで諦めないよ。」
「おう!がんば!」
絶対に諦めない。心のなかで呟いた。
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