【医、命、遺、維、居】場所
【巧side】






「めでたしめでたし。」







絵本を閉じて、見やる縹杏梨(ハナダ アンリ)ちゃんを、大きくなったと感慨深く思うのは、なんておこがましいんだろう。







医者なんかやっていると、だんだん勘違いしてくる。




本人に、家族に、


助けてくれてありがとう
一生懸命でいてくれてありがとう
最後まで諦めないでいてくれてありがとう


別れ際、
そう言ってもらえるから。




自分だって、周りだって、


こちらこそ助けさせてくれてありがとう
出会わせてくれてありがとう
命の大切さを教えてくれてありがとう


なんて、
謙遜を口にするけど。








自分が助けてやった、だなんて。





医者だからといって、

神様なんかになれやしないのに。








「それでもまだ俺は、しがみついているんだよな。」







思い上がって、過信して、


止められなかったから。




ただ後悔を、懺悔を、償いを、



俺が勝手に科した罰を、




柚希はどんな思いで俺のそばにいるのか。








「また懐かしいの読んだんだね。」




「ん、ああ・・・、なんか読みたくなったから。」







覚めないのが現実なら、何があっても『めでたしめでたし。』で終わってくれる夢物語に託したい。







「なに?巧の気分だったの。付き合ってくれてありがとねー、杏梨。」







杏梨ちゃんの頭を撫でながら、笑う柚希に感じるこの気持ちを伝えることだってないだろう。







「ランドセルどうする?今は色んな色が」



「赤。」



「一択?」



「杏梨ちゃんに似合うのは赤だ。」






ランドセルといえば赤だろう。






「杏梨にっていうより、ザ・ランドセルって感じしかしないけど。まあ、行くんだから見てからの都合でいいよね。色だけじゃなくて、機能も充実しているみたいだし。」




「そうなのか?」




「うん。可愛さだけじゃなくって、大きさとか軽さとか、色々。その分出費がかさむって嘆いていたけど。」







小児科外来はその手の話に事欠かないから、俺より情報通だ。
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