虫~殺人犯の告白~
少年
彼は手を伸ばし、吸っていた煙草を灰皿に押し付けた。

「なぜ?」

彼は怪訝そうな表情のまま横目でこちらの様子を窺っている。

その先の言葉は無かった。

本来なら、俺達上手くいってただろ?とか、他に男ができたのか?とか続く筈だろう。
しかし彼との間には、お互いに何も問い掛ける理由が無かった。

強いて付けるなら、

「なぜ俺の玩具を辞めるなんて言い出すんだ?俺に許可もなく」
だろう。

その先の続かない空虚な言葉は、何の意味もなさない様でいて恐ろしい程の強制力を持っていた。

彼は二人の間に投げ出した問いをただ繰り返した。

「なぜ?」

私は急に少年を思い浮かべた。

生け捕りにした虫を、母親に可哀想だから逃がしなさいと言われた少年の反応だ。

いやだと言って離さない。

僕の、僕の大切な玩具なんだと言う。

もう虫は弱っている。
それでも虫は少年の手から飛び立とうとする。

このまま少年に虫を持たせたままなら、羽を引きちぎり、動かなくなるまで弄び続けるだろう。

動かない虫に興味を失えば、草むらへ投げ捨てるだろう。

だって、「僕の玩具だから」

私は彼の事を恋人同士でなくても、お互いに欲しいものを奪って逃げる共犯者なのだと思っていた。

少なくとも私は彼に取って人間だと。


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