君のいた時を愛して~ I Love You ~
 診察室に入ってきたサチを見た中嶋医師は、今日もサチが一人で来たことにため息をつきそうになった。
「今日も、ご主人はお仕事の都合つかなかったんですか」
 残念そうに中嶋医師が言うと、サチはコクリと頷いた。
「すいません。私の医療費もかさむので、残業も多くて、すぐには休めないんです」
 本当のところ、病院に付き添いたいというコータに嘘の日を教え、前日に会社を休ませ病院に来れなくしたのは誰でもないサチ本人だった。
「そうですか。困りましたね」
 中嶋医師はカルテを見つめてつぶやいた。
「前回もお話ししましたが、理学療法の経過が芳しくないので、骨髄移植を考えるべき段階に達していると思われます。ですので、ご主人も一緒にお話をして今後の治療方針を決めていきたいのですが・・・・・・」
 中嶋医師は前回も言った内容をサチに伝えた。
「なんとか、ご主人に来ていただくことはできませんか? 外来の時間外でも構いません。夜遅くでないとお仕事が終わらないのであれば、遅くにでも構いません」
 食い下がる中嶋医師に、サチは無言で俯いた。
「中村さん、これは命に係わる問題なんです。ご主人にきちんとお話しされてますよね? あのご主人が、仕事が忙しいからといらっしゃれないような方には思えないのですが、もしかして、お話しされていないということはありませんか?」
 中嶋医師の鋭い突っ込みに、サチは答えを見つけられず、ただ頭を横に振った。
「わかりました。では、次回の予約はご主人のお休みが取れる日を確認してからお電話で予約を取ってください」
 思いつめた瞳をするサチをこれ以上追い詰めたくなかったので、中嶋医師は言った。
「理学療法は、次のステップがどうなるにしても続ける必要がありますから、きちんと受診してください。それから、お薬もきちんと飲んでください」
 中嶋医師の言葉にサチは頷くと『ありがとうございました』と礼を言って診察室を後にした。

☆☆☆

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