君のいた時を愛して~ I Love You ~
一瞬、疲れすぎているのではと、コータはめまいを覚えて思った。しかし、すぐにそれはめまいなどではなく、地震なのだというのが突き上げるような激しい揺れで理解することができた。
バックヤードでクレーマーの女性客の話を聞いていたコータとマネージャーだったが、地震発生時の避難誘導手配のため、バックヤードのスタッフに女性客の避難を任せ、コータとマネージャーは売り場に戻った。
店内の電気はすべて蝋燭を吹き消すようにスーッと消えていき、窓のないバックヤード側の店内はほぼ真っ暗になり、避難経路を示す非常灯以外すべて消えてしまった。
フロアーには瓶入り商品が割れたガラスの破片がまき散らされ、さらに液体と袋入りなどの商品が床に落ち、どこもかしこも滅茶苦茶になっていた。
(・・・・・・・・なんなんだよ、これ・・・・・・・・)
怯えるお客とスタッフを店の外へと誘導しながら、コータは今朝から様子のおかしかったサチの事を思い出した。
(・・・・・・・・サチ・・・・・・・・)
何とか店内から客を全員退避させたコータは、何か用事を頼みに来たらしいマネージャーに頭を下げた。
「マネージャー、すいません。家内が心配なので、帰らせてください」
「何言ってるんだ、仕事を投げ出すつもりか?」
さすがのマネージャーも、激しい地震とぐちゃぐちゃの店内に正気を失っているようで、『どうしても帰るというならクビだ!』などと多少ヒステリックな声を上げて怒鳴った。
「すいません。頑丈な店でこんな風になったら、うちのボロアパートなんて、倒壊してるかもしれないんです」
さすがに、コータが『アパートが倒壊』という言葉を口にすると、マネージャーは諦めたように『帰っていい』とだけ言ってスタッフの点呼と、避難させたお客に怪我がないかの確認を始めた。
コータはマネージャーの背中にもう一度頭を下げると、ダッシュで裏口からバックヤードに戻り、PHSの液晶画面の明かりを頼りに倒れているロッカーを起こして自分の荷物を取り出した。
その間にも、余震が来てこれが並大抵の規模の地震でないことをコータは肌で感じながら一度はバス停の方へと走り始めたが、停電のせいで信号機が機能していないことに気付き、バスを頼るのではなく、自分の足でアパートまで走ることにした。
道路を横切るたびに信号が機能していないので、自動車にはねられないように四方に目をくばり、慎重に横断する必要があった。
コータはポケットのPHSを取り出すとサチに電話をかけようとした。しかし、表示は圏外になっていないのに、しばらく無音かと思うと、お話し中の音がして電話はつながらなかった。仕方なく、アパートの呼び出し電話を呼び出そうとしたが、そちらも全くつながらなかった。
走り続けるコータは、何度もめまいのような感覚に襲われ、それが余震なのだと感じながら家屋から逃げ出てきた人たちが立ち尽くし、座り込む住宅街を走り抜けた。
余震の度に、あちこちから悲鳴が上がり、電信柱がグラグラと揺れるのを見ながら、コータは走り続け、そしてサチのPHSに電話をかけ続けた。
何十回かけなおしたのかも分からないくらい、コータはやみくもに電話をかけなおし続けた。そして、やっと呼び出し音が聞こえた。
「サチ!」
まだサチが電話に出ていないのに、思わずコータはサチの名を呼んだ。
しばらく呼び出し音が鳴り、やっと電話がつながった。
「サチ、無事なのか? 部屋にいるのか? 一人なのか?」
『さっちゃんが、さっちゃんが・・・・・・』
電話の向こうから聞こえたのは、サチの声ではなかった。
「サチが、サチがどうかしたんですか?」
コータの焦った声が住宅街に響き渡った。
『さっちゃんが倒れて、意識が戻らないんだよ』
動揺しているおばさんに『いつから』とか、『どんなふうに』とか、質問したいことは沢山あったが、どんな言葉も音にはならなかった。ただ、呼吸をするのももどかしいほど、コータは全速力でアパートを目指して走った。
足の感覚がなくなり、走っているという実感もなかったが、力の限りにアパートを目指した。それでも、一度立ち止まったら、二度と進めなくなりそうな気がして、コータはただただ走り続けた。
バックヤードでクレーマーの女性客の話を聞いていたコータとマネージャーだったが、地震発生時の避難誘導手配のため、バックヤードのスタッフに女性客の避難を任せ、コータとマネージャーは売り場に戻った。
店内の電気はすべて蝋燭を吹き消すようにスーッと消えていき、窓のないバックヤード側の店内はほぼ真っ暗になり、避難経路を示す非常灯以外すべて消えてしまった。
フロアーには瓶入り商品が割れたガラスの破片がまき散らされ、さらに液体と袋入りなどの商品が床に落ち、どこもかしこも滅茶苦茶になっていた。
(・・・・・・・・なんなんだよ、これ・・・・・・・・)
怯えるお客とスタッフを店の外へと誘導しながら、コータは今朝から様子のおかしかったサチの事を思い出した。
(・・・・・・・・サチ・・・・・・・・)
何とか店内から客を全員退避させたコータは、何か用事を頼みに来たらしいマネージャーに頭を下げた。
「マネージャー、すいません。家内が心配なので、帰らせてください」
「何言ってるんだ、仕事を投げ出すつもりか?」
さすがのマネージャーも、激しい地震とぐちゃぐちゃの店内に正気を失っているようで、『どうしても帰るというならクビだ!』などと多少ヒステリックな声を上げて怒鳴った。
「すいません。頑丈な店でこんな風になったら、うちのボロアパートなんて、倒壊してるかもしれないんです」
さすがに、コータが『アパートが倒壊』という言葉を口にすると、マネージャーは諦めたように『帰っていい』とだけ言ってスタッフの点呼と、避難させたお客に怪我がないかの確認を始めた。
コータはマネージャーの背中にもう一度頭を下げると、ダッシュで裏口からバックヤードに戻り、PHSの液晶画面の明かりを頼りに倒れているロッカーを起こして自分の荷物を取り出した。
その間にも、余震が来てこれが並大抵の規模の地震でないことをコータは肌で感じながら一度はバス停の方へと走り始めたが、停電のせいで信号機が機能していないことに気付き、バスを頼るのではなく、自分の足でアパートまで走ることにした。
道路を横切るたびに信号が機能していないので、自動車にはねられないように四方に目をくばり、慎重に横断する必要があった。
コータはポケットのPHSを取り出すとサチに電話をかけようとした。しかし、表示は圏外になっていないのに、しばらく無音かと思うと、お話し中の音がして電話はつながらなかった。仕方なく、アパートの呼び出し電話を呼び出そうとしたが、そちらも全くつながらなかった。
走り続けるコータは、何度もめまいのような感覚に襲われ、それが余震なのだと感じながら家屋から逃げ出てきた人たちが立ち尽くし、座り込む住宅街を走り抜けた。
余震の度に、あちこちから悲鳴が上がり、電信柱がグラグラと揺れるのを見ながら、コータは走り続け、そしてサチのPHSに電話をかけ続けた。
何十回かけなおしたのかも分からないくらい、コータはやみくもに電話をかけなおし続けた。そして、やっと呼び出し音が聞こえた。
「サチ!」
まだサチが電話に出ていないのに、思わずコータはサチの名を呼んだ。
しばらく呼び出し音が鳴り、やっと電話がつながった。
「サチ、無事なのか? 部屋にいるのか? 一人なのか?」
『さっちゃんが、さっちゃんが・・・・・・』
電話の向こうから聞こえたのは、サチの声ではなかった。
「サチが、サチがどうかしたんですか?」
コータの焦った声が住宅街に響き渡った。
『さっちゃんが倒れて、意識が戻らないんだよ』
動揺しているおばさんに『いつから』とか、『どんなふうに』とか、質問したいことは沢山あったが、どんな言葉も音にはならなかった。ただ、呼吸をするのももどかしいほど、コータは全速力でアパートを目指して走った。
足の感覚がなくなり、走っているという実感もなかったが、力の限りにアパートを目指した。それでも、一度立ち止まったら、二度と進めなくなりそうな気がして、コータはただただ走り続けた。