君のいた時を愛して~ I Love You ~
その翌日から、渡瀬の洋子の足取りを辿る日々が始まった。
 年末年始ということもあり、顧問弁護士に頼むだけでなく、渡瀬は興信所にも洋子の子供の行方を探させた。この地上に生きている限り、かならずどこかに痕跡は残っている。そう信じて、年内に見つけることができれば、追加で報酬を払うという約束をして興信所を焚きつけると、渡瀬は一日千秋の思いで報告を待ち続けた。


 年末を控えたある日、渡瀬は興信所からの報告を受け取った。
 そこには、自分の若いころに面差しの似た若い男性の写真と、現住所が記されていた。但し書きを見た渡瀬は、思わず目を疑った。
 自分の息子が定職にもつかず、アルバイトを掛け持ちし、光熱費込みの部屋貸しの下宿屋のような集合住宅に住み、あまつさえ、女性と同棲していると、そこには書かれていた。
 この文明社会に携帯も持たず、日雇い労働者のような暮らしをしているにもかかわらず、女癖が悪いのか、同棲までしているということに、渡瀬は少なからずショックを受けた。
 思い返してみれば、自分だって洋子を妊娠させたまま、息子の存在さえ知らず三十年。息子が女性と暮らしていることを責められた義理ではないが、今のような暮らしをしていれば、どこの馬の骨とも知れぬ女性との同棲も許さされるが、渡瀬の息子として社会的な地位を持つようになれば、そうもいかない。早急に、息子と話し、この女と別れさせなくてはいけないと、渡瀬は決心した。
< 26 / 155 >

この作品をシェア

pagetop