君のいた時を愛して~ I Love You ~
二十
知らない人の気配にコータは慌てて状態を起こした。
「とりあえず、昨日の服でいいから着替えなさい」
 朝の挨拶もせず、父だと名乗った男は自分の言いたいことだけを言うと部屋から出ていった。
 俺は自分の足に縛り付けてあった上着の中からちょうどよく温まっている洋服を一式取り出すと、すぐに着替えを済ませた。それから、サチとの大切な連絡手段であるPHSをズボンのポケットにしまった。
 さすがに、家の中では上着を着たままというわけにはいかないだろうし、万が一PHSを持っていることを知られ、取り上げられては大変だ。
 一応身なりを整え、上着を手にドアノブを回すと、昨夜はびくともしなかった扉がスッと開いた。
 予想通り、扉の前には父だという男が立っていて、俺のヨレヨレになったシャツや膝が出かけている薄くなった冬用のズボンをジロジロと眺めてから、大きなため息を残し、先に立って歩き始めたので、俺は黙って後に続いた。
 俺が一晩を過ごした部屋は三階だった。
 夜の暗さもあったと思うが、地面がはるか遠くに見えたのは、各階の天井が普通の家のように低くなく、かなり天井の高い作りになっているからのようだった。
 家の中は、屋敷という印象を与えたとおり、日本の家屋ではなく映画に出てくるような外国の建物のようだった。
「こっちだ」
 言われるまま、俺は後に続き、豪華な花の飾られたテーブルのある部屋に入った。
 昨晩会った、薫子と言う女性はすでに席についていて、父だという人が席に着くと、用意がされている席は一つだけになったので、俺は黙って席に着いた。
「挨拶くらいできないのか?」
 突然の言葉に、俺は唖然としたものの、仕方なく『おはようございます』と言った。
「おはようございます、幸多さん。昨夜はよくお休みになられたかしら?」
「あ、はい」
「この屋敷の部屋を大陸横断鉄道の寝台と間違えたらしく、足に服を縛り付けて、ずいぶん窮屈な寝方をしていたようだ」
 嫌味なのか、単なる表現なのかわからなかったが、褒められていないことだけはわかった。
「俺は、ここがどこなのかも、あなたが誰なのかも知らないんですから」
 俺が言うと、父と名乗る男は不愉快そうな顔をした。
「お前の母親は洋子だから、無理に薫子を母と呼べとは言わない。だが、私の事は少なくともお父さんと呼びなさい」
「だから・・・・・・」
 俺が言い返そうとしたところに、湯気を立てた温かい卵料理が運ばれてきた。
 美しい皿の上に載せられた卵料理の脇には、トマトとマッシュルーム、それにボリュームのあるソーセージが飾りのように並べられていた。
 卵料理の皿の両側には、サチとのクリスマス・ディナーを思い出させるナイフとフォークが何本か並んでいた。そして、皿の向こう側には、皿を立てるような金属のスタンドに挟まれて三角形をしたトーストが並んでいた。
「我が家は、お前の曽祖父さんの頃から、朝はイギリス式と決まっているんだ」
 よくわからない説明に戸惑いながら、俺は目の前の薫子さんの動きに倣い、トーストとバターを取り、それから卵料理やトマト、マッシュルームやソーセージに口をつけた。
 いつもとは、比べようもないほど豪華な朝食だったが、緊張していた俺には味は全く分からなかったが、それでも十分おなかは一杯になった。


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