君のいた時を愛して~ I Love You ~
 車が屋敷と言うべき家の前に停まると、薫子が直ぐに姿を現した。
 自分の夫があれほど自分のことを悪く言っていることをこの女性は知っているのだろうかと、コータは思いながら、必死に渡瀬を寝室に連れていく薫子を見送った。
 想像通り、ガタイのいい男はコータを三階の部屋に連れていくと、コータを中にいれて外から鍵をかけた。
 こういうのを自宅軟禁、いや、やっぱり監禁って言うんだよなと思いながら、コータはスーツを脱ぎ、カバンに詰め込まれている自分の古い服を取り出して着替えた。
 コータの頭の中は、怒りでぐちゃぐちゃになっていた。
 スーツから取り出したPHSをしまう前に、コータはもう一度PHSの電源を入れた。
 PHSはなじみのあるブルっとバイブレーションでメールの着信を知らせた。
『コータ、愛してる』
 サチからのメールは短かったが、今一番コータのききたい言葉だった。
 コータはたまらずサチの番号に電話した。
『コータ?』
 驚いたようなサチの声に、コータは涙が出そうになった。
「サチ、ごめん、今日は帰れないけど、できるだけ早く帰るから」
『コータが帰ってきてくれるなら、いつまでも待ってるから』
 サチの優しい声がコータの心を和ませてくれた。
「サチ、愛してる。本当は、こんなことになる前に、サチにちゃんと伝えるべきだったんだ」
『コータ、あたしが愛してるのは、コータだけだから』
「サチ・・・・・・」
『バッテリー、無くなっちゃうから切るね』
「サチ! 愛してる!」
『コータ、愛してる。おやすみなさい』
 コータは仕方なくPHSの電源を切ると、PHSを隠した。
 悠長にパソコンスクールに通う時間はない。
 あの男がサチに手切れ金を渡し、あの部屋を解約しようとしていることが分かった今、コータはあのガタイの大きな男と戦ってでも明日こそはサチのもとに帰ると決心した。
< 46 / 155 >

この作品をシェア

pagetop