君のいた時を愛して~ I Love You ~
 俺が家に帰ると、上機嫌のサチが待っていた。
 サチは手慣れた様子で料理を仕上げながら、今日の出来事を話して聞かせてくれた。
 思っても見なかった助け船に、俺はサチの幸運に感謝せずには居られなかった。
 正直、俺自身、お金がないのだから仕方がないとは思っていたものの、あの見本で見せて貰ったどのドレスよりも、やはり最初の店で試着したあのドレスが一番サチに似合っていたし、サチにあのドレスを着せてやりたいと心から思っていた。
 本当なら、俺はリクルートスーツでも全然構わないのだが、それじゃあ綺麗なサチの隣に貧相な男が写っているという、結婚の記念写真にならないから、俺の衣装は当然買うつもりもなかったし、一番安いもので良いと思っていた。それでも、サチがウェディングドレスを着て、美しいチャペルの中にいる姿をパンフレットの写真を見ながら想像したら、やっぱりそう言う綺麗な写真を撮ってあげたいと思っていた。
 でも、着たいドレスを着れる方がサチにとっては幸せなことだと思うと、俺は当然、サチのアイデアに賛成した。
 俺が二言返事で賛成すると、サチはなぜか一瞬、俺のことをじっと見つめた。
「本当に良いの?」
「あたりまえだろ」
「コータは借り着で良いの?」
「俺は、全然気にしないっていうか、男の着るものなんて、どれも大して変わらないって」
 俺が言うと、サチは瞳を潤ませて俺に飛びついてきた。
「サチ・・・・・・」
「あたし、嬉しくて・・・・・・。あたしが幸運を掴んでくるんじゃないよ。コータが、あたしを幸せにしてくれるんだよ」
 泣きながら言うサチを俺はしっかりと抱き締めた。
「サチは、俺の幸運の女神だよ。それは、絶対に間違いない」
 俺の腕の中でサチは、しばらくじっとしていた。俺もサチを近くに感じて幸せな気分だった。
 二人の静かで愛と幸せに満ちた時間を激しく震える鍋の蓋が遮った。
「ごめんね、コータ。おなか減ってるよね」
 サチはあわてて言うと、俺から体を離して鍋の蓋を取って火を消した。
 ホカホカの肉じゃがを盛り付け、サチが戻る間に俺がご飯をよそる。味噌汁は鍋料理の時に使うガスコンロで温め直して二人が席に着いてからお椀につぐ。
 平凡で、幸せな時間がゆっくりと過ぎていった。
「じゃあ、次の休みにドレスを買いに行って、ドレスの準備ができたら、手配は全部サチに任せるから、すぐに写真を撮ろう!」
 夕飯を目の前に俺が言うと、サチは笑顔で『はーい』と答えた。
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