君のいた時を愛して~ I Love You ~
二十八
 その日は、晴れの日に相応しく、晴れ渡る天気の良い日だった。縁起なんてかつがない俺でさえ、これからの俺とサチの未来が幸せであることを疑わないくらい、何もかもが素晴らしい一日だった。
 サチは美容院で髪の毛のセットとメイクをしてもらい、一目惚れしたドレスに身を包んでいた。
 俺は借り着だったけど、いつものスーツとはひと味違うフロックコートとか言う、丈の長い上着を着て、渡されるままに小道具だというシルクハットを片手に、眩く光り輝くようなサチの隣に立って写真を撮って貰った。
 本当は、二人だけの写真を一枚撮るだけのつもりだったのに、気付けばサチが椅子に座ったり、二人で見つめ合って手を取ったり、幾つかのポーズをとらされて、何枚も写真を撮られた。
 そして、写真館に飾りたいからと頼まれ、追加のポーズの写真も撮られた。
 打ち合わせの時にサチは写真館に飾る写真を追加で撮るかもしれないという話を聞いていたようだったが、それはあくまでも写真館のオーナーが気に入ったら、という話だったようで、サチは俺に話してくれていなかったから、俺は少し驚いたけれど、ウェディングドレス姿のサチを見たら、きっと誰もが美しいと見とれるに違いないと俺は確信していたから、オーナーが気に入ったのも当然だと思った。


 撮影した写真の何枚かはデジタルだったようで、着替えを済ませたサチはデータの書き込まれたディスクを手渡されていたが、俺たちは苦笑いをするしかなかった。
「これは?」
 サチは質問すると、写真館のオーナーは、笑顔で答えた。
「若い人は、携帯電話に写真を入れたりするって聞いたからね、折角の記念写真だから、デジタルも合った方が良いかと思っただけだよ。それは、おまけだから写真が出来るまで、良かったら家のパソコンででも見てくれれば・・・・・・」
 オーナーの言葉に、俺は仕事でさわり始めたパソコンの事を思い出した。
 奴に散々バカにされ、パソコン教室に送られたおかげでサチのところに帰ることが出来たのが、あの時はサチの元に帰ることばかり考えていたせいで、パソコン教室出来いたことは全く覚えてなかった。だから、今更ながらに会社で色々なレポートを作成しなくてはならなくなり、パソコンの使い方の本を買って独学で使い方を勉強はしているものの、当然の事ながら自分ではパソコンは持っていない。
「パソコン、家にないんですよ」
 俺が言うと、オーナーは笑顔で答えた。
「別に腐るもんじゃないから、そのうち見たらいいよ」
「そうですね、ありがとうございます」
 サチが笑顔で答え、俺も無言で頷いた。
 俺達は着替えを済ませ、貰ったディスクと衣装を持って写真館を後にした。
 俺のフロックコートはコンパクトにまとまったが、サチのドレスは箱に入れてもそれなりの大きさがあった。
「やっぱり、もう一部屋借りないとドレスが飾れないな」
 俺が言うと、サチは困った表情を浮かべた。
「大丈夫だよ。別に、ドレスが増えなくたって部屋が狭いことは事実なんだから」
 俺は笑って言うとサチの手を取り、部屋を目指した。

☆☆☆

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