お嬢様、今夜も溺愛いたします。
「じゃ、じゃがいも!?」
さ、さすがにそれは……
思わず体がぶるっと震えた。
小さい声だったから言いものの、今の発言が誰かに聞かれていたら……
恐ろしすぎて、1人じゃ夜道なんて歩けない。
「お嬢様は、こうやって私に見つめられるのはお嫌いですか?」
「ちょっ、黒木さんっ……!!
こ、ここ学校ですから!!」
近い近い近い!!
昨日から思ってたけど、この人の距離感、おかしいんじゃないの!?
さらには腰に回ってない方の手で、私の片手を持ち上げ口元に持っていく。
「お嫌いですか?」
なんか黒木さんの目……据わってません?
「き、嫌いとかではなくて!
み、みんな見て……」
!!?
「なかなかお応え頂けなかったので、つい。
お嬢様は、どうやらキスに弱いようでございますね」
「なっ……!?」
唇で触れられた部分を指で撫でつつ、いいことを知ったと言わんばかりに不敵に微笑む。
ああっ、もう……っ
私のバカ。
たかが執事1人(だがしかし、イケメン……)になんでこんなに振り回されてるの!!
「まあ、私のことをお嫌いであろうとも今の所は全く構わないのでございますが」
「は、はぁ……」
「お嬢様には手取り足取り……色々教える必要がありそうです」
手取り足取り?
「ど、どういう意味ですか」
「ふふっ、そのまんまの意味でございますよ」
口元に人差し指を当てて、口角を上げるその仕草。
周りからは相変わらず黄色い悲鳴が聞こえるけど、私には何が良いのかさっぱり分からない。
「い、意味が分かりません……」
「その方が、“燃える”ということです」
燃える?
何が?
黒木さんが?
ますます分からん……
怪訝な顔で見上げれば、持ち上げていた私の手を離し、ポンポンと肩を叩く。
「さあさあお嬢様。このお話はこれでおしまいです。転校初日ですのに、遅れてしまっては元も子もありませんよ」
「…………」
いやいや……
誰のせいだと思ってるんですかっ!!?
こんな所で足止めしたのは黒木さんでしょうが!!
叫びたい気持ちを我慢して睨み上げるも、にっこりと微笑むだけで何も言わない。
「さあお嬢様、参りましょう」
腰にある手、離してよ……
なんて朝からどっと疲れ果てた私が言えるはずもなく、ひたすら下を向いて校舎への道を歩いた。