冷徹王子と成り代わり花嫁契約

「物分りが良くて助かる」


感情の起伏のない冷たい声が、北風と共に私の頬を撫で上げた。

私は一瞬、呼吸を詰まらせて、風で端を捲り上げられた外套を直すふりをして、自分の腰に手を当てた。


「待て、何を……」


相手が私の行動に不信感を持ち、止めようとこちらに伸ばして来た頃には、遅かった。

私は護身用にと、腰に巻いた革製のベルトに引っ掛けていた小さな鞘から、ナイフを抜き取っていた。私は呼吸を止めて、その銀の切っ先を自分の首筋に向けた。

男の驚いた顔と焦った声に、私は出し抜いてやったと言わんばかりに小さく微笑んだ。


「お断りするわ」


私は、妹と同じように腰まで伸ばしていた髪の毛をひと房掴んで、肩から下までを躊躇いなく切り落とした。


「あなた、妹が今夜殺されることを知っていたわね」


呆然と立ち尽くす男に目もくれず、私は残った髪の毛までも、乱雑に切り捨てた。
足元に落ちた長い金髪に、少しだけ名残惜しさを感じながら視線を落とした。

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