冷徹王子と成り代わり花嫁契約

「やめて」


絞り出した声の、その動揺がどうか彼に伝わっていませんように。

私は、一瞬私の手を握る彼の指先から力が緩んだのを感じて、勢い良く振り払った。
心臓が痛い。顔が、湯を沸かせそうなほどに、熱い気がした。


「……俺たちは婚約者だろう」


納得いかなそうに、切なそうにそう言ったエリオット王子と視線を合わせることなく、私はつとめて冷たい声で、答えた。


「私は、偽物よ。」


その言葉に、エリオット王子は、はっと息を呑んだようだった。

彼の時間が停止したのを見て、私はネグリジェの裾をつまんで、彼に背を向けて走り出した。

平坦な薄い靴が、パタパタと静かなパーティールームに鳴り響いて、酷く寂しげで、チクチクと針で刺されたように、胸が痛む。


――エリオット王子が追いかけて来ることはなかった。


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