冷徹王子と成り代わり花嫁契約

「はい。ヴェルデ王国の王子の側近を拘束し、尋問したところ、やはりクリストフ王子の指示のもとに、《血印の書》が盗まれていたそうです」


エリオット王子は許してくれるだろうか、私の作ったタルト・タタンを喜んで食べてくれるだろうかと、期待と不安が入り交じる心を抑えて、扉を叩こうとして――聞こえてきたヴァローナの言葉に、耳を疑った。


「クリストフ王子……?」


数日前に、薔薇園で出会った、ロゼッタの恋人であり、私にとっての見知らぬ青年。あの彼が、《血印の書》を奪い――まさか、ロゼッタまで殺したというの?一体、何のために。

扉を叩くために手を掲げた状態で固まって思案していると、先程まで扉の内側から聞こえていた話し声が止み、不気味なまでの静寂が下りた。


ジリジリと焼け付くような威圧感が襲ってきて、私は本能的に一歩、二歩と後ろに下がった。


パンプスの踵が、床とぶつかりカツンと小さく音を鳴らす。
その瞬間、目の前の扉が勢い良く開け放たれて、目の前を銀の光が横切った。


緊迫した表情のエリオットを守るように背にし、私に向かってナイフを突き付けるヴァローナ。その瞳は獲物を狩る猛禽類のようで、私は唾を飲み込んだ。


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