冷徹王子と成り代わり花嫁契約

「ロゼッタ様?」


中々返事をしない私に不信感を抱いたのか、木製の扉越しにもう一度名を呼ばれた。

私は咳払いを一つして、自分本来の声よりもワントーン高い妹の声を張り上げた。


「ごめんなさい。今、目が覚めたわ」


元々はこの屋敷の使用人として働いていたから、こうして誰かに直接起こされる経験が無かったために、動揺して返答が遅れてしまった。

使用人だった頃は、早朝目覚まし係と呼ばれる、人を起こすことを生業とした正体の知らない人達に、機械的に窓を叩かれるだけだったから。


「身支度をお手伝いしたいのですが、お邪魔しても宜しいでしょうか?」

「ええ、構わないわ」


私が返事をすると、一呼吸置いて扉が開かれる。

その向こうから、白く色素の抜けた長い髪の毛を、後ろに一つにまとめて団子状にした年老いたの女性が、人の良さそうな微笑みをたたえながら現れた。

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