冷徹王子と成り代わり花嫁契約

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『私はこっちよ!』


齢十もいかないほどの、私によく似た顔の少女が、綺麗なドレスを靡かせながら、薔薇が咲き乱れる庭を走っていた。

薔薇の紋様が掘られた重厚な鉄製の扉に、その通路を囲むように張り巡らされたアイアンフェイス。

この場所には見覚えがある。エリオット王子の城にある、薔薇園だ。


『あまり走ると転んでしまうよ』


少女の後を呆れたように歩く、黒髪の少年の姿。

白いシャツに、サスペンダーのついたズボンといった軽装だが、シワや汚れ一つなく、上質な生地を使っているらしいことから、相当な身分の者だとわかった。


『きゃっ!』

『だから言ったのに』


少女が石造りの道に足を取られて前のめりになったのを、少年はくすくすと笑っている。

その顔は、靄がかかったようになって見ることが出来ない。

――これは、夢の中だ。

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