プロポーズは突然に。





覚えているのは、病院の屋上で突然母に札束を差し出されたこと。

借金があったはずの母が、どうやってそのお金を手に入れたのかは分からなかったけれど、あまりの衝撃に固まってしまったことは覚えてる。




『手切れ金よ。受け取りなさい?』

『な、に…言ってるの?』

『これであたし達は他人だから…面倒なことはお父さんに助けてもらいなさい』

『……いらないっ』




それを受け取れば、母にまで捨てられてしまうんだと直感的に思ったから。

差し出されたそれを頑なに拒んだ。



そんな私の反応に母はため息をつきながらそれを地面に置き、私に背中を向けるとスタスタと歩いて行く。


だけど、それは出入口の扉の方向なんかではなくて…




痩せ細った母の体は力なくフェンスを乗り越え、私がハッとした時には既に屋上の端に立っていた。



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