秘密の恋は1年後

 エントランスの前で、一組の男女がこちらに背を向けて立っているのを見つけた。
 立派なマンションにどんな人が住んでいるのかと好奇心が湧いたけれど、敷地内に立ち入るわけにいかず、遠巻きに見つめるしかない。

 彼らに向き合って立つ女性もいて、立ち話をしているようだ。でも、なんだかあまり明るいムードではないと伝わるものがある。
 そして、女性は泣きながらこちらに向かってきて、私に気づくことなく足早に去っていった。

 一体なにがあったのかと考えて、すぐに浮かんだのは修羅場だ。男性が女性を裏切ったから泣いてしまったのだろうと、おおよそ予想はつく。
 私は残された男女のほうへ再び視線を戻した。


「ごめんね、結衣ちゃん。面倒かけて」

 男性の声が聞こえて、数メートル先に目を凝らす。すらっとした背丈のスーツ姿の男性と、隣に立つ私と同じくらいの背丈の女性は恋人同士なのか、それとも夫婦か……。

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