秘密の恋は1年後

「いちいち人の顔を見るな」
「なんでですかぁ」

 見るなと言われても、四六時中見つめていたいほど好きなのに。
 むぅっと唇を突きだして帽子の内側でぼやくと、今度は突然帽子を取られ、眩しさに目を細めた。


「……こういう目に遭うぞ」

 鼻先の距離で私に影を作った尚斗さんと見つめ合い、刹那の間を置いて唇が重なった。
 今こそ帽子で隠したいのに、彼が自分の頭に乗せてしまい、両手で顔を覆う。

 まさかのタイミングでキスをされて一気に鼓動が鳴り出し、横たわったままでいると、頭上に人の気配を感じた。
 指の隙間から確かめたら、五歳くらいの男の子がひとりで立っている。
 家族連れも多いので子供がいるのは不思議ではないけれど、親とはぐれてしまったなら問題だ。


「こんにちは」

 身体を起こして、男の子に話しかけてみる。隣にいた尚斗さんも私の声で気づいたようだ。


「どうしたの?」

 挨拶をしてみたけど返事はなく、ただひたすら私たちを眺めているので問いかけてみた。

< 231 / 346 >

この作品をシェア

pagetop