秘密の恋は1年後

 尚斗さんも休み明けは多忙で、「夕食は要らない」と連絡があったので先にひとりで食事をして、ぼんやりと小説を読んでいると、玄関から「ただいま」と彼の声が聞こえた。


「おかえりなさい」
「ただいま」
「んっ……」

 ビジネスバッグを持っていない左手でハグをされ、耳に小さくキスをされた。
 それが少しくすぐったくて身じろぐと、彼は笑って腕の力を強める。


「そんな甘えた声出して、帰って早々お誘いか?」
「ち、違います」

 意地悪を囁いてくすっと笑った彼は、私を解放して書斎に入った。

 帰って早々は、こっちの台詞だ。
 いきなり耳にキスをされたせいで、頬が熱くなる。

 腕にかけていたサマースーツのジャケットをハンガーにかける彼の背中を見つめ、ほんのり感じた爽やかな香水の匂いにドキドキさせられた胸を、なんとか落ち着かせた。

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