クールな社長の耽溺ジェラシー
一章:


【閂(かんぬき)建設・設計部設備課照明係 高塔小夏(たかとう こなつ)】――自分の名前のプレートが置かれた席に座り、資料を見つめた私は固まっていた。

視線のさきに書かれているのは“コンセプト:光環境の整備と人が集まるまちづくり”――。

「今回の“まちなかライトアップ”に関するプロジェクトは私たち閂建設だけではなく、新野(にいの)デザイン事務所の新野夕(ゆう)社長をお迎えして行ってまいります」

三十人ほどが入れる会議室で私のひとつ年上の先輩である広瀬(ひろせ)さんが、コの字形に組まれたテーブルの前に立ち、マイクを片手に会議を進めていく。

普段は無駄口が多くて年齢より若い言葉遣いをするけれど、今はしっかりしたしゃべりで安心して聞いていられた。

「では、簡単にではございますが、私から新野社長をご紹介させていただきます」

広瀬さんがタッチパネルになっているモニターに触れると、そこには新野社長の実績と仰々しい賞の名前がずらずらと表示された。

彼が手がけた作品は、誰もが知る有名な建物やランドマークや名所ばかりで、その華々しい功績に会議室に集まった関係者からは「おお」と驚きと称賛の声があがる。

さすがにプロジェクトを新野社長中心に進めてほしいと依頼してきたクライアントは知っていたようで、目を丸くしている関係者たちを見て満足そうに顎をさすっていた。

広瀬さんが新野社長の紹介を終えると、こちらを振り向く。

このプロジェクトは多くの企業が一丸となって進めるもので、企業が所有する施設だけではなく、都が管理する公共施設やランドマークもライトアップの対象になるため、外部の関係者がずらりと席に並んでいた。

一方、閂建設側のスタッフは少なく、私と前に立って話をしている広瀬さん、上司である正司知幸(しょうじともゆき)さん、そして――。


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