クールな社長の耽溺ジェラシー


だけど、そんな恥ずかしさも周りの風景に目を向ければすぐに忘れてしまう。夜道を照らす街灯や、飲食店やショッピングモールを華やかに彩るライティングは見ているだけで心が躍る。

「私は夜の街を歩くのって好きです。いろんな照明が見られて」
「ホント、こなっちゃんって仕事好きだよね。新野さんが熱心っていうのもわかるわ」

新野さん……という響きに鼓動が跳ねる。そういえばバカなことを言ったんだった、私。

「高塔さんは頑張り屋だからね。僕だって前からちゃんと知ってたよ」

前を歩いていた正司さんが口元をほころばせながら振り返った。たったそれだけのことに心臓が敏感に跳ねあがり、照れくさくて肩をすくめた。

「広瀬くんに聞いたけど……変な実践しなくても、努力してたら成果だってそのうちついてくるよ」
「あ、ありがとうございます」

頑張っているのは正司さんに追いつきたくて……とは口にできない。

ありがたいフォローに頬が熱くなるのを感じながら頭をさげた。

元々、照明に興味があったわけではなくて、建物が好きだったことや手に職をつけたくて建築を学んでいた。

大学で勉強をしているときも、建築のことなら誰に負けないと胸が張れるほど熱い想いがあったわけではない。

だけど課題に行き詰まったとき、正司さんが照明をデザインした美術館に出会って変わった。

美術館自体はほかの人が設計したもので、その建物の構造も素晴らしかったけれど、私が心を奪われたのは照明だった。

展示物を美しく照らすだけではなく、光源を限りなく減らして太陽光を取り入れる設計はどこまでも優しくて、こんな空間があるのかと入り口に立ったまましばらく動けなくなるほど感動した。

正司さんの作品に出会うまで、取りつけ方や器具の違いはあれど、照明は単純に照らすだけのものだと思っていた。

そんな自分の考えを覆され、すごく繊細で高いデザイン性が必要なものなのだと、正司さんが照明を通して教えてくれた。

照明を奥深くまで知りたい、誰にも負けないと胸が張れるくらい照明を好きになりたいと心から思った。

――自分の道が決まった瞬間だった。


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