クールな社長の耽溺ジェラシー


順調に打ち合わせを終えると、広瀬さんや瀬那さんと一緒に会議室を片づける。

主任である瀬那さんは、女性らしい繊細なデザインでさまざまな建物の照明を設計し、いろんな賞も獲っている三十歳。

旧姓のまま仕事をしているけれど、社長の閂蒼一(そういち)さんの奥さんだったりもする。

漫画でしか見たことがないシンデレラストーリーのヒロインは女性社員の憧れの的なのに、気取ったところがなくて、服装も着飾らず動きやすい格好をしている。仕事が大好きな人だ。

「そういえば、瀬那さんって新野さんのこと知ってますか?」

デスクの上で書類を揃えている瀬那さんに声をかけると、ボブの髪を耳にかきあげてこちらを振り返った。その左手の薬指にはまぶしいほどに輝く指輪がはめられていた。

「新野社長? 知ってるよ。ふたつ上の先輩だったし、一緒に仕事もしてたからね」

新野さんのことを思い出しているのか、少し遠くを見ながら穏やかな笑みを浮かべた。

「どんな方でしたか?」
「とにかく仕事ができる人だったよ。私が入社したころにはすでに大きな建物の設計に参加していて、勉強のためについているだけじゃなくて、ちゃんと意見を言ってた。
私もああなれるのかなって思ってたら全然違ってて、そのときにあらためて新野さんの才能を感じたかな」

書類を揃え終えた瀬那さんが席を立つと、広瀬さんもパソコンを手に立ちあがった。

「俺も一年しか仕事してないですけど、新野さんのセンスの良さは記憶にあります。けど、まさか独立するとは思いませんでしたね」
「私も。そんな野心がある風には見えなかったよね。……って、広瀬くん、自分の荷物忘れてる」
「やべっ、すんません」

謝る広瀬さんに瀬那さんは「いつになったら成長するの」と口を尖らせつつ、荷物を持ってあげていた。

「あの……新野さんって正司さんとは仲よかったんですか?」

廊下に出てエレベーターを待っている間に、もうひとつだけ気になっていたことをたずねてみる。

「どうかな? 正司さんはあの通り誰にでも愛想いいけど、新野さんは一匹オオカミって感じで誰にも懐かないタイプだったから」

いまと変わらない感じか……と思っていると、瀬那さんはなにか思い出したように「あ」と言葉を続けた。

「でも、先輩として尊敬はしてたんだろうね。センスが似てたから」
「センス……」

仲がいいエピソードもなければ、悪かった話も出てこない。

周囲からはいたって普通の先輩後輩の仲に見えていたみたいで、新野さんが正司さんを嫌う理由はわかりそうにもなかった。


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