クールな社長の耽溺ジェラシー
「……そろそろいいんじゃないか?」
戸惑いが滲んだ新野さんの声が聞こえてきて、カメラの小さなモニターから視線をあげた。気がつけば、同じ風景が何枚も保存されている。
「わかりやすいアングルが数枚あればいいだろ。写真集をだすわけじゃない」
「す、すみません」
「謝らなくていい。それより計測もできたし、次の現場に行くか」
怒るでもなくあきれるでもなく、あいかわらず真顔の新野さんに続いて、私も慌てて歩きだす。
今日は約束していた現場の下見に来ていた。
乗り換えに便利な駅がある街中にはオフィスビルが建ち並び、スーツとカバンを手にしたビジネスマンや品のある服に身を包んだキャリアウーマンが、ギラギラと照りつける日差しの下を歩いていた。
ビルが多くても小さな公園もあるし見晴らしのいい場所もあるのに、街歩きを楽しんでいるような人はいない。当然、クライアントが求めているカップルも見当たらなかった。
動きやすさ重視で色気がないとはいえ、ラフな格好をした私たちは、もしかしたら周りから唯一のカップルに見えているかもしれない。
「……で、俺と歩いてなにかわかったか?」
新野さんが見下ろしてくる。歩幅を合わせてくれているのか、身長差があるのにぴったりと隣に並んでくれていた。
「正直、まだなにも掴めてません」
というか、実は新野さんと正司さんの関係が気になってしまい、照明についてはじっくりと考えられていなかった。
「恋人っぽくしたらいいのかもな。……腕でも組むか」
「いっ、いいです、遠慮します」
ためらいもなく私に腕を差しだしてきたから、焦って距離をとった。
「残念だな。……ま、したくなったらいつでも言ってくれたらいい。協力する」
頬をゆるめると、私の頭を軽くなでる。
これだけでも充分カップルっぽい気がするんだけど、私の経験値がないだけだろうか。それとも、新野さんが意識してなさすぎるだけだろうか。