クールな社長の耽溺ジェラシー


「……で、なにが“いいものが浮かばない”なんだ?」
「えっ」
「浮かんでるような気がするけど」

口元を柔らかくほころばせる。温かみのある笑みに、一瞬思考が奪われそうになった。

そうだ、ちゃんとアイデアはあるし、こうしたいというイメージもある。下見もしたし調査もした。その結果があるのに、なんで見失っていたんだろう。

「まったく、人騒がせだな」

わざとらしく大きく息を吐きだす新野さんの頬は、どこか優しくゆるんでいた。

「……騒いでないじゃないですか」

悔しいやら嬉しいやら、とにかくありがたい。冗談めかしてつっこむと、新野さんはさらに目を細めた。

「顔に出ないほうなんだ。ほら、こっち仕上げるぞ」
「はい」

私も頬を同じくらいゆるませて、“こっち”に向き直る。悩みが解決したからか、いつもの倍々速度くらいで進んでいった。

新野さんと話したあとは頭がすっきりして、いままで進んでいなかったことが嘘のように仕事がはかどった。

どうしたいか、なにがいいと思っていたのか、自分が一番よく知っていた。

というより、自分ができるもの以上のことを、どうしてできると思っていたのだろう。

いいものを。いまよりもっといいものを。

……そう考えて頑張るのはいいけれど、自分を見失うほどの高みを目指せば道がわからなくなって迷走するだけだ。

デザインに迷ったら自分に問いかける。どうしたいと思ったのか、事前調査の結果はどうだったか。そこから最善の答えを探すことにした。


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