クールな社長の耽溺ジェラシー
「今回は広瀬さんの案でお願いします」
正司さんや広瀬さんはもちろん、関係者など十人ほどが集まった会議室にクライアントの声が響き渡った。
「ありがとうございます!」
広瀬さんがその何倍も大きな声をだして直角に腰を折った。
照れくさそうに首裏を掻いて柔らかな髪を揺らす姿は、喜びが溢れていてその場にいたクライアントや関係者だけではなく、プレゼンで負けた私までも爽快な気持ちにさせた。
「いやぁ、高塔さんの案もすごくよかったんです。女性が好みそうで捨てがたかった。ただ、広瀬さんのほうがメインスペースとの雰囲気がマッチしていてよかったんです」
「私も、そう思います」
クライアントの言葉にうなずくと、広瀬さんは自信満々な笑みを浮かべた。
「メインスペースとどうつなげようか……めっちゃこだわりましたもん。すごくよくできたと自分でも思ってます。ぜひ、次の企画は俺をリーダーにお願いします」
謙遜しない広瀬さんに、正司さんは「広瀬くん」とたしなめ、クライアントは「そうするよ」と楽しそうにうなずいた。
「こなっちゃん、今回は俺の勝ちだな」
会議室から出ると広瀬さんがいたずらっ子みたいに白い歯を見せて笑った。
「次は負けませんよ?」
「いいねー、それでこそライバル」
ライバル……って、見てくれているんだ。今の私には図々しい肩書きにも思えたけれど、不思議と嬉しくて、胸の奥がくすぐったくうずいた。……どうしよう、顔がにやける。
エレベーターへ向かう広瀬さんに遅れて、私はゆっくりと歩きだした。
「ん? こなっちゃん、なんでそんなうしろ歩くの?」
広瀬さんがこちらを振り返ったので、口元を隠すようにうつむく。
「いえ、気にしないでください」
言いたくない、言えるはずがない。広瀬さんのライバル発言に頬がゆるんで、それを見られたくないから、なんて。
勝負に負けたから悔しいことは悔しいけど、その結果をしっかりと受け入れられていた。