相沢!ベッピン鉄拳GIRL
交際宣言っす。
全校生徒の皆さん、こんにちわ。

貴塚ヶ原高校、二年 矢広 竜太です。

僕は今、人生の春を迎えています。

なんと、あの、我が校のレジェンド、

相沢 京子さんと、交際をスタートする
ことになりました。

はいッ!ここは拍手するところです!

パチパチパチパチ………。

思えば二人が出会ってから、
ずいぶん経ちました。

僕の情熱と愛を、彼女は理解し、
受け止めてくれたのです。

これからの一年間、二人の高校生活を
思う存分、楽しんでいきたいと思います。

つきましては、在校生ならびに
新入生の皆さんに、ひとつだけお願いと、
注意することがあります。


「……何、書いてんだ?」
相沢先輩が覗き込む。

ここは市民図書館、二階の学習室。
日曜日だが、人はまばら。

俺、矢広 竜太の鉛筆の音も良く響いてた。

「俺と、相沢先輩の交際宣言っす。
放送部に、昼休み時間枠もらう約束、
取り付けました。全校版っす」
相沢先輩にも一応、聴いてもらって直しを
いれよう。

先輩は真顔になり、
「何なんだ、それ……。放送部のどんな弱味、
握ったんだ?」
目を閉じて、目頭をつまんで揉みながら、
「あんまり、あちこちに迷惑かけんな」
と、言った。

「でも、……でもっすよ?もし、何にも
知らない一年生とかが、
『相沢先輩とお付き合いしたい』
とか、
『彼氏いるのかな』
とか、言ったときにですよ?
いちいち張っ倒しor説明してたら
キリ無いですもん。ここは一度、大々的に
宣言してですね……」

「ほほう、アタシと付き合いたい?
そんなヤツ他にいるか。お前くらいだろ」
それから、目を細くして、
「彼女ができて、舞い上がってる男子その
ものだな」
と、言った。

「そう言う相沢先輩は、落ち着いてますね」

「うん、まあ、相手がお前だからな。
舞い上がりようがない」


え。それ、どういう意味?

「それに、だ、矢広。わざわざ
『俺達、付き合ってます』って言わなくても、
そう見える様に振る舞えばいいんじゃないか?」

「たとえば?」

「並んで歩く、とか、名前は呼捨て、とか。
……試しにアタシのこと名前で呼んでみ?」

えっ?
「え?え?俺が?相沢先輩のこと?呼捨て?」
いいのか?

「いーから、呼んでみ?」
相沢先輩は、菩薩の笑みだ。

よしっ。これが彼氏の第一歩ってヤツ。
やっぱ、カッコ良くシリアスにだな。

「京、……京……」
ダメだ、緊張する。
「京?子?なはっ。京、京、子……」
うわっ。ほんとだ、彼氏ってカンジ。

「京、ちゃはっ。京、だはーーっつ‼ダメだっ‼
超緊張するー!ぜーはーひーぷはー‼」

俺は、精一杯、爽やかなキメ顔を作った。


「……京子………」
ああっ。あああっ。

「もうダメだっ。照れるっ、照れるっ。
うわー、超彼氏ってカンジですよ俺!」

相沢先輩は、菩薩顔のまま、

「アタシ、どうしてこんなヤツと
付き合うことにしたんだろ……」
と、言った。





……。

そりゃ、無いっすよ。

「そりゃあ、俺が猛攻アタックしたからっしょ。
俺の愛が、先輩に伝わったんす」

相沢先輩は、大きくため息をついて
「……そういう事にしとくか、わかりやすくていい」
それから、俺の方見て、

「じゃ、アタシの番な」
こほん、と咳。
「竜太君、至らないこともあるだろうけど、
これからもヨロシクね」


うわ、うわっ。いいっ。うはっ。

「いい。いい、すごく。かわいっ!」
……でも。




「……でも、なんか違う」

「だよな……」

「……ハイ」

「お互い、無理せず行こう」

「……ハイ」

結局、先輩の呼び方は京子……さん。にとどまった。
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