相沢!ベッピン鉄拳GIRL
おもろいヤツら。
放課後のグラウンドで、ジャージ姿で立つ
京子さん。手には竹刀、額にハチマキ。
絵に描いたような、鬼教官スタイル。

そして、そのグラウンドの遠くを走っている
のは、岩佐の(望まぬ)弟、マサミだ。

仲原が飛行機と調整機材を持って、
グラウンドに出てきた。

マサミの走りを見守る京子さんを見て、
「相沢さん、若い男好きっすね」
笑いながら仲原が言う。

「そんなこと言うなら、仲原、お前も来い。
ちょっと鍛えてやる」
京子さんも、笑顔。

「ああっ、すいません!勘弁して下さい。
俺ってばまた、失言を……」
後退しながら、俺に、
「じゃ、先行って飛ばせてみるから、後でな」
あわてて、手を振る。

「おう」
返事する俺。

そんな俺を横目に一年女子二人が、
小声で話してる。

「あの人でしょ?二年の」

「そうそう、京子お姉さまに付きまとって、
彼氏気取りでいるっていう……」

「お姉さまには、もっと素敵な方がお似合いに
決まっているわ。近々アプローチがあるわよ」

「そうなったらすぐに、お払い箱よ」

「そうよ、そうよ」




………。



「うんぬれるうああ!ぬああにいうとんじゃ
あああああああああーー‼‼」

「「きゃー‼猿が怒ったー‼」」
並んで走って逃げるヤツら。猿はお前らじゃ!



「……竜太、後輩女子にからかわれて本気で
怒るんじゃない……」
竹刀で肩をポンポンしながら、言う京子さん。

「……だって、だって……」
うるうるうるうる。

グラウンドから、京子さんの前まで戻って
来て、ゼーゼー息を吐くマサミ。
かなりキツそう。

「……こっ、これ……じゃ、いじめ……られ……
てるの……と、何……何も……変わらない」

京子さんは、涼やかな笑顔のまま、
「なんだって?お前、アタシの愛が解んない
っての?じゃ、もう一周」

「……お、鬼?」

「おに?二周」

泣きながら、ふらふらと駆け出すマサミ。

「マサミー!頑張れー!」
ちょっと可哀想になって、声援をおくる。
したら、マサミ、よろよろこっち来て、

「僕の名前、政宗のマサに美しい、って
書いてマサヨシって読むんです。でも、
敬一郎さん、そう呼んでくれたことなくて……」

①わざと名前を間違えて呼ぶ。
②呼ばれる本人が嫌がる呼び方で呼ぶ。
③違和感なく続ける。

いじめの基本、外してないぜ、岩佐。

「そういう事は早く言えよ……」

「何だかだんだん、何もかもどうでも
よくなっちゃって」

その、気力の無さは何なの?

マサヨシの背中を押す。トテトテと、
力無い足音で、ふにゃふにゃ走る。

「なあ、マサヨシ?お前、虫とか好き?」

「虫?なんですか?」

「例えば、こんな」
そこで捕まえたカミキリムシ。ホレ。

「うわっ!うわっ!やめてくださいっっ!」

「さー、走れ、全速力で走れ」

「絶対、いじめだああああー!」

マサヨシを追いかけて走る。
遠くで京子さんがほほえんでいる。
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