気がつけば・・・愛
キッチンに立つ住職の背中を見ていると
幾分気持ちも落ち着いてきて

周りが目に入った

見覚えのある小さな机
ほのかに香る墨の匂い


・・・住職の部屋


男性の部屋に寝ていることと
「あゆみさん」
と名前で呼ばれたことを思い出し


また身体全体が鼓動とリンクするよう...

名前で呼ばれたのは...いつだったか
手繰り寄せる記憶もない

昔...過換気で倒れたことがある

住職に抱き竦められたことに驚いて
換気し過ぎて倒れたのだと
恨めしい気持ちと嬉しい気持ちが
複雑に入り交じる

気持ちも身体も助けられてばかり
出会って間もない住職への信頼感は
芽生えた想いと重なり誤魔化せなくなってきた

この気持ちは
間違いなく好意

夫のいる身の上なのに

住職を好きになってしまった

思い返せば思春期の頃も
女子の間で繰り広げられる恋バナに
今ひとつ感情が伴わない自分がいた

(あゆみは誰が好き?)
そう聞かれても曖昧な返事しか出来ず

【好き】そのものの存在に
気づかずにいたのかもしれない

だったら・・・夫は?

少なくとも好きだったはず
でも・・・
こんなに苦しむ程の想いがあっただろうか?

ーーあっーー

何度も自問自答する頭の中に
ハッキリと浮かびあがるのは
【憧れ】の文字

憧れを好きだと勘違いしてしまった


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