気がつけば・・・愛


「……思い出して下さい」

胸に着けた耳から
ドクドクと住職の早い鼓動が伝わる

ーー独身のころ?ーー

記憶の中を探ろうとすればするほど
お坊さんとの接点が浮かばず

焦る気持ちは私の鼓動も早くする

間近で見上げた顔に

面影を探そうとした
上目遣いは……

視線を落とした住職とぶつかり

切ない潤む瞳を見ていると
胸が苦しい

その瞳がゆっくり近づいて
同じ高さに重なった


ーーあっーー


不意に重なった唇

驚いて目が丸く開く


まつ毛が触れそうな距離の
住職のまぶたが閉じられているのを見て

頭を過ぎる沢山の言葉から
逃れるように瞳を閉じた


唇を合わせただけの口付けが離れると
また胸にギュッと抱かれた

「良憲(りょうけん)です」

思い出してと声が心に響く

・・・えーっと
・・・良憲、良憲

頭の中をグルグル回る名前が
隅っこで消えかけていた
懐かしい坊主頭君を見つけた


「・・・りょうけん君?」

「思い出してくれましたね」


穏やかに微笑む住職につられて
イケナイことをした自分を棚上げして
笑みを返した

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