お見合いだけど、恋することからはじめよう
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「あっ、おねえちゃんっ」

その夜、ひさしぶりに家で姉の姿を見た。

来月から始まる通常国会に向けて、内閣から提出される予算案や法案などの準備が大詰めで、この時期の省庁は超忙しいらしい。
キャリア官僚としてバリバリ働く姉とは、ほとんど話をする機会がなかった。

お風呂から出てリビングに入ってきた姉に、あたしは声をかけた。

「あのね……あたし、今度お見合いするかもしんないんだけどさ」

姉は奥のキッチンで冷蔵庫を開け、中からスーパードライの缶を取り出していた。

最近は発泡酒も美味しいのが出てるっていうのに(っていうか、カロリーオフなのが呑みたいんだけどっ)父が「家で発泡酒なんて絶っ対にイヤだ!」と言って聞かないのだ。

「……あ、おとうさんから聞いたよ。
あんた、田中 諒志とお見合いするんだって?」

姉はスーパードライを一口呑んだあと、反対の手でストレートの真っ黒な艶髪を、ばさっと掻き上げた。

あたしはココアブラウンのふわっふわな猫っ毛で、湿気のある日は広がって広がって大変になるから(だからミディアムボブにしているんだけど)姉の美髪はほんっとにうらやましい。

「おねえちゃん、やっぱ田中さんのこと知ってるんだ?」

大学の学部も、就職先も一緒だもんね。
だったら、話が早い。

あたしはリビングのソファから身を乗り出して、姉に尋ねた。

「ねぇ、おねえちゃん……田中さんってどんな人?」

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