お見合いだけど、恋することからはじめよう

『それに……あのときは、あたしだって口惜しかったからさ』

落ち着いて通話できる場所へ移った友佳は、ぼそりと言った。

『だってさ、ななみんってば、あんな目に遭わされたっていうのに、赤木さんからまったく謝ってもらってなかったっしょ?』

しかし、その口調がだんだんヒートアップしてくる。

『ななみん、一時は食欲もすっかりなくなって、激痩せするしさっ。うちに来てもなぁんにも食べずに呑んでばっかだったじゃん!会社だって、辞めそうな気配だったしっ。
……あたしもまゆゆもミキティも、ほんっとに心配したんだからねっ!』

彼らが名古屋へ去ってからも、あたしのひどい状態はしばらく続いた。


あれから三年が経ち、今では麻由と美紀子は転職と結婚によって、もうこの会社にはいない。
あたしの方が図太く残っているのだ。

また、それまでは男子社員からそこそこ「水野さん、今度呑みに行かない?」と声をかけられていたのだが、それからはすっかり腫れ物に触るような存在になってしまった。

だから、あたしに対してズケズケ言ってくるのは青山くらいだ。

……結局「あれ」以来、彼氏もできなかったしね。

別に、恋愛に懲りた、というわけでもないのに。
むしろ、早くあの頃を忘れられるのなら、すぐにでも違うだれかを好きになりたかった。


「うん……そうだったね。
あのときは、ありがとう……ともちん」

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