一円玉の恋
どれくらい盗み見していたのか分からない。
ダメだ。これはしちゃダメな行為だと思って離れようとした矢先に、その綺麗な女性と山神さんがキスをしたように見えた。
そして女性が名残り惜しそうに手を振って離れて行く。
山神さんも彼女の方に手を振っている。
私は猛ダッシュでその場を離れた。
多分気づかれてはないはず。

猛ダッシュで走って旅館の所までは来たが、旅館には入らずに、そのまま本当に散歩して来ようと、通り過ぎた。
道なりにどんどんと歩いて行く。
朝なのに日差しが暑い、蝉も鳴いている。
なんか旅館に戻りたくないと思っていると、スマートフォンが鳴り出した。
もちろんかけてきた主は山神さんだ、出たくないとは思うけど、そういう訳にはいかず、「はい。」と返事をする。

「どこほっつき歩いてんの?朝ごはん食べるよ!」

といつも通りの声だった。

「あー。先食べててもらえますか?戻るのに時間かかりそうなんで。」

若干道が分からないのも事実だし、このまま帰るのもなんとなく嫌だ。

「どこにいるの?」

とこっちの気持ちも知らずに呑気に聞いてくる。
「分かりません。」

と、答えると、

「じゃあ、迎えに行くから待っといて。」

と当たり前のように言ってくる。

「あっ大丈夫です。帰れます。」

ほんっと今はまだ会いたくないんだってと思って、そんな事を言うと、

「いいから、そこにいろ!」と怒られた。

なんで、なんで怒こるのよ。
会いたくないんだもん。
なんか、本当に会いたくない。
あんな光景の後だから?
でも、杏子さんの時は何にも思わなかったのになぁ。
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