一円玉の恋
一円玉より愛を込めて
それから、もうすぐ三年が経とうとしている。 今も、私は杏子さんのマンションで部屋を借りて暮らしている。

大学も無事卒業し、就職もなんとか出来た。
私の仕事は翻訳家だ。
といってもまだ名ばかりで、就職できた制作会社では、事務処理や雑務に追われる事の方が多い。
それでも、大好きな英語に触れていられる仕事だ。
経験を積み重ねていけば、いつかはフリーでもやっていけるんじゃないかと、日々邁進している。

その夢に向かって行動し始めたのは、杏子さんの所に越してまもなくの頃。
元々、子供の頃から洋画を借りて観るのが我が家の趣味であった。
その字幕の翻訳家さんに憧れて英語の道に大学は進んだのだ。
就活があまり上手くいってないこともあっだが、そっちの道が私らしく生きていけるのではないかと思って、ゼミでお世話になっている教授に相談したら、「なかなか食べていくには大変だけど、君の能力だったら十分やっていけると思うから、僕の知り合いに求人が出てるか聞いてあげるよ。」と賛成してくれた。

そして、今の会社を紹介してくれた。
憧れには程遠く、心折れそうな時もあるけど、そこは大好きな彼が励まして支えてくれるおかげで、大きな仕事も回して貰えるようになりつつある。

山神さんとは、卒業までの半年は、私の時間の都合がつけばデートをするという感じだった。
その頃には私もはっきりと山神さんが好きだと自覚出来ていた。
それでも、この関係性はまだゆっくりと育くんでいけばいいかと思っていたのに、大学卒業後すぐに、山神さんが「翠が社会人になったら、うかうかしてられないからね。翠と俺の親に挨拶をしに行くよ。」と、半ば強引に押し切られ、お互いの両親に挨拶をしに行った。
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