その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
「密輸のルートがこれで明らかになったな。ユナイ川の氾濫に乗じて侵入か、……リスクは高いが、氾濫時は軍も領主も領民への対応で手いっぱいだからな。入国してしまえば、後は楽なんだろう。フリークス卿も麻薬の件は知らなかったようだしな」

 麻薬の密輸組織はフリークス領を経由してアルディスとリデリアを頻繁に行き来し、不法に麻薬を売りさばいていたのだ。

「後はこれで、密輸の現場を押さえられれば一気に叩けるな。なんせ貴族にまで被害が出ているんだ。国レベルの犯罪だぞ、これは」
「イリストア卿は被害者じゃない。叩き潰す」
「目つきが危険だぞ、フレッド。これで解決に一歩近づいたな。まだしばらくは屋敷にも帰れなさそうだが」

 サイラスが、椅子の周辺に散らばった書類を何枚か拾い上げる。

「屋敷はいいが、オリヴィアに会えないのがキツい」

 約束の日、彼女には会えなかった。いや、侍従によると彼女は部屋の前までは来たらしいが、彼には会わずに帰ってしまったのだ。

 理由を問いつめても侍従は困惑するばかりで使えない。だが「フレッド様にお渡しなさりたかったのだと思います」と差し出された巾着袋の中身に、フレッドはうめいた。

 餞別ということか。自分が彼女の家を壊したから。
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