その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
「そうすれば、僕はあろうことか王宮の中で女性に乱暴した不届き者として罰せられるだろうな。殿下との噂も消えるだろう。好都合だよ」
「何てこと……! いけません、御自分を大事になさって。殿下を愛してらっしゃるのでしょう? こんなことで失ってはなりませんわ」

 オリヴィアは自分の言葉に傷つきながらも、フレッドをなんとか正気づかせようと懸命に彼の腕に抗った。

「なぜ僕が殿下を? あり得ない」
「でも、婚約も間近だと聞きました」
「前にも言ったけど、きみは人をもう少し疑った方がいいよ」
「いまフレッド様の言葉を疑っています! 騙して呼び出すなんて」 
「きみに会いたかったんだ。ずっと……きみが来なくて僕がどれほど落ち込んだかわかるかい」

 その言葉は耳に直接吹き込まれた。その少し掠れた切ない響きと、耳にかかる熱のこもった息に、フレッドを引き離そうとした手が一瞬止まった。

 フレッドが彼女の耳朶に唇を寄せた。押し当てられた唇の熱さに、彼女の身体が跳ね上がった。
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