その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
「知られて嬉しいものでもないね、格好悪いよ」
「フレッド様の格好悪いところも好きですよ。もしも気が狂ってしまわれても、好きです」
「もう狂ってるんじゃないかなと思うよ。きみを手放せそうにないんだから」

 フレッドがまるで二人のあいだに隙間を作りたくないとでも言うように、彼女を抱きすくめる。硬い身体に囲われれば、あるのはこのうえない安心感だけだった。

「愛してる」

 フレッドの少し掠れた声がオリヴィアの脳髄に響くと同時に、唇が重ねられた。
 柔らかな唇のあわいから、彼の想いが流れ込むような錯覚にとらわれる。

 フレッドが彼女の髪を片手で器用に解く。ふぁさりとダークブラウンの髪が腰で跳ねる。彼が毛先のゆるくカールした髪に手を差し入れ、繰り返し梳いた。
 オリヴィアの身体が火照り、肌が色づいていく。
 
 ここは王宮で彼の執務場所で、さらに言うなら床を共にする時間でもない。今さらながら、自分の行動の大胆さに羞恥で耳もとまで赤く染まる。

「ずっと、きみに触れたかった」

 手をやんわりと取られ、指を絡められる。彼がその甲や手首に唇を這わせる。

 何度も自分を守ってくれた優しい手。この手は自分を傷つけない。そう、信じられた。
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